市川由衣が語り尽くす「海を感じる時」で体現した“痛み”と“もがき”
2014年8月28日 08:00
[映画.com ニュース] 市川由衣は泣いていた。「サイレン FORBIDDEN SIREN」以来約8年ぶりの主演作「海を感じる時」初号試写を見て、涙が止まらなかった。隣席に座る苦楽をともにしてきた担当マネージャーもまた、とめどなく涙があふれた。市川は、「現場にモニターがなかったんですよ。映像を一切見ていなかったから、そのときに正真正銘初めて見ました。エンドロールでホッとして泣いてしまったんですが、自分の出演する映画で初めて泣きましたね」と振り返る。市川がそれほどまでに思いを込めた主演作について、思いのたけを語り尽くした。
「撮影中も知らず知らずのうちにプレッシャーを感じていましたし、自分の中での覚悟もあったので、完成した作品を見て思いがあふれちゃったんでしょうね」と市川に言わしめた「海を感じる時」は、1978年に18歳だった中沢けい氏が発表し、第21回群像新人賞を受賞した同名小説が原作。高校生の恵美子が、少女から大人の女性へと成長していくさまを、精緻な描写でえぐり取った問題作だ。オファーを引き受けた最大の要因を、「恵美子の痛さに魅力を感じたし、そこに全く共感できなければ引き受けていなかったと思います」と告白。さらに「やらないと後悔すると思いましたけれど、やるには精神的な面で相当の覚悟がいると感じました」と打ち明ける。
今作を語るうえで、洋を演じた池松壮亮について避けて通ることはできない。市川も、「すごいなとしか思わなかったですね。洋にしか見えなかったし、恵美子が洋にあんなにもひかれ、追いかけたくなる意味というものが、演じていて分かりましたから」と同調。さらに、撮影を通して向き合った池松に対し、「この人のことは私しか分かってあげられないという、心の悲しさを感じてしまう恵美子みたいなところがリアルでした。そういったことを感じさせてくれる俳優さんってなかなかいないですし、池松さんには本当に助けられましたね」と感謝の念は絶えない。
原作の中沢氏とは、初号試写の後に初対面を果たしたそうで「すごく緊張しましたけど、先生が映画のことを気に入ってくださり、『30年待って良かった』と言ってくださったことが一番嬉しかったですね」と笑みを浮かべる。そう、今作は82年に根岸吉太郎監督作として映画化に向けて動き出したことがあったが、実現にはいたらなかったという経緯がある。それだけに「やっと実現したお話だったので、このタイミングで恵美子をやらせてもらえることになったのは本当にありがたいことですね」と感慨に浸る。
だが、市川に浮ついた気持ちは一切ない。「今までもお仕事に順位をつけてやったことはありませんし、目の前のお仕事に向き合い続けてきました。この作品で心も体も裸になっていったことというのは自信になりましたね」。今作が市川にとっての最高傑作になったことは言うまでもないが、今後については謙虚な姿勢をにじませる。「人が思う私のイメージってそれぞれあると思うのですが、もっともっと違う役をやりたいですね。自分の力不足を痛感することも今後あると思います。でも、本当に不器用な人間なので、やっていくことでしか成長できないんですよ。これからまたいつか、自分の代表作といえるような作品と出合えるように頑張りたいですね」。
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