“Jホラーの先駆者” 鶴田法男監督、満を持して挑んだゾンビ映画を語りつくす

2014年7月25日 14:10


メガホンをとった鶴田法男監督
メガホンをとった鶴田法男監督

[映画.com ニュース]Jホラーファンをうならせてきた「ほんとにあった怖い話」。鶴田法男監督は、人間の心理を突いた恐怖描写で、“Jホラーの先駆者”として多くのホラー作家に影響を与えてきた。心霊現象を描き続けてきた鶴田監督が、新作「Z ゼット 果てなき希望」で挑んだのは、漫画家・相原コージ氏の漫画「Z〜ゼット〜」を原作にしたゾンビホラーだ。ゾンビに抵抗感を抱いていたという鶴田監督に、メガホンをとらせたものとは。名作へのオマージュをふんだんに盛り込んだ新作を語りつくす。

フレームの片隅に映る女、何者かの気配漂う暗がり。実態のない恐怖を映し出してきた鶴田監督は、「実は今までにもゾンビもののオファーを受けたことがあるのですが、断っていたんです」と明かす。“Jホラーの原点”と呼ばれるビデオ版「ほんとにあった怖い話」の制作経緯を振り返り、「1980年代にゾンビや『13日の金曜日(1980)』といった欧米のスプラッターが、日本に入ってきました。作品は面白いのですが、欧米文化に触発されて、日本の怪談という優れたホラーをないがしろにしてしまっていいのかという疑問があって、怪談を現代的に再構築して提供すれば、また日本の文化に目を向けてくれるのではという思いからつくったのが発端でした。そういう意味では、ゾンビものは基本的に否定していたんです」

しかし今回、「相原コージさんの原作に込められているメッセージが素晴らしいので、映画化しなくてはいけない」という思いに突き動かされた。原作は、人間と頭を撃ち抜いても襲い掛かってくるZ(ゾンビ)の死闘を描き出す。これまでゾンビ映画と距離を置いてきた鶴田監督は、相原氏の漫画であぶりだされる「葛藤(かっとう)」「欲望」「希望」に魅力を感じたという。

相原コージさんは、『こんな地獄のような世界でも、命が生まれてくるということが希望なのかもしれない』と素晴らしいことを語っているんです。作品に登場する人間は、死の象徴であるゾンビに直面しているにもかかわらず、『生』と『』に執着している。極限状態のなか正直になる人がいるということを明確にしているんです」

「Z ゼット 果てなき希望」の一場面
「Z ゼット 果てなき希望」の一場面

鶴田監督は、閉鎖された病院を舞台に、ゾンビがもたらす絶望を形にした。「ゾンビは明確な恐怖なので、対じする人間も明確に描かないと、バランスが悪くなってしまう。ですから、残酷な描写もありますし、人間の欲望がむき出しになるところも描かざるを得なかったんです。僕にとって大きな挑戦でした」。ゾンビ映画への抵抗に反するように、画面にはゾンビの造詣や演出といった鶴田監督のこだわりがあふれている。

「僕はゾンビ映画を否定している一方で、ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』は非常に思い入れが強いんです。(病院を設定したのは)ゾンビ映画は限定した空間の方がつくりやすいということと、ロメロ作品に対するオマージュがありました。ロメロのソンビ映画がやろうとしたことを僕もやってみようと思ったということが、脚本執筆の最初のイメージでしたね」

98年の「リング」の大ヒットで、世界的に起こったJホラーブーム。鶴田監督は、新境地に挑んだゾンビ映画で、Jホラー界にどのような風穴を開けようとしているのか。

「僕がはじめたことは、『人間を画面の端に見切れさせることで幽霊に見せる』という技巧だったんです。でも、技巧というものは真似し始めるとエピゴーネン(模倣)が生まれ、新鮮味が失われてしまう。ロメロのゾンビ映画は、当時の先端技術だった特殊メイクによって、残酷なものがリアルに描かれたからヒットしたのであって、今では特殊メイクが売りにはならない。同じように、Jホラーの髪を垂らした女の子が幽霊に見えるということでさえ記号化していて、そういう意味ではJホラーも下火になってしまっているところがあります。でも、僕はもともと怪談を現代にアレンジすることで、日本人の繊細な恐怖感覚を再発見できるのではないかという気持ちがあったので、見える表現ではない深いメッセージを込めたホラーをつくれば、Jホラーはいろいろな形で発展して定着していくと思うんです。今回、初めてゾンビ映画をつくりましたが、長回しで何にも出てこないようなカットなど、長年Jホラーをやってきたからできた演出をしたつもりです。Jホラーとゾンビを融合させることで、新しい価値観が生まれ、新しいものを提供できると思うんです。『Z ゼット』がJホラーブームの新しい局面を提示できればいいなと願っています」

Z ゼット 果てなき希望」は、7月26日から全国で公開。

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