カンヌ新人監督賞「ILO ILO」アンソニー・チェン監督「この映画には普遍的な価値観がちりばめられている」
2013年11月27日 13:20
[映画.com ニュース]第66回カンヌ映画祭でカメラドール(最優秀新人監督賞)を受賞したアンソニー・チェン監督「ILO ILO(英題)」が、東京・有楽町で開催中の「第14回東京フィルメックス」コンペティション部門出品作として11月26日上映され、来日したチェン監督が観客とのティーチインを行った。
1997年、アジア通貨危機の影響下にあるシンガポールが舞台。高層マンションに住む共働き家庭に住み込みメイドとして働くフィリピン人のテレサと、雇い主の息子との交流を軸に、多民族国家ならではの文化から普遍的な家庭問題までを描き出す。
監督自身の実体験が基になっているそうで、「私の家にも4歳から12歳の8年間、フィリピン人のメイドがいました。『ILO ILO』は、彼女の故郷の地名でかわいらしい音だと思ったので、覚えていたのです」とタイトルの意味を紹介し、「97~98年にアジア金融危機があり、多くの人が失業した時代。私の父も失業し、それ以降より良い仕事には就けませんでした」と当時の状況を振り返った。
キャスティングにはとりわけ力を入れたそうで、息子役は8000人の候補から数々のオーディションを実施し、演技経験のなかった小学生が選ばれた。反抗期まっただ中の小学生らしい子どもの自然な姿を捉えていることから、観客から清水宏やフランソワ・トリュフォーの影響はあるのかと問われると「まさに、少年のイメージとして描いていたのはトリュフォーの『大人は判ってくれない』です」と答えた。
時の隔たりのあるカットをダイレクトにつないだ大胆な編集について指摘されると、「暴力的ともいえるほど規律正しく直覚的な編集にしました。シーンを伸ばしているとお涙ちょうだい的になりがちな題材なので、センチメンタルに感情におぼれるような編集にしたくなかった」と説明した。
長編デビュー作であり、脚本、演出、撮影、編集すべてを担当。今月発表された中国版アカデミー賞とも言われる台北金馬奨では作品賞、新人監督賞、脚本賞、助演女優賞の4冠を獲得。アカデミー外国語映画賞のシンガポール代表にも選ばれており、世界各国で高く評価されていることについては「作り手としていろいろな声を聞くなかで」と前置きし、「この映画の中には普遍的な価値観がちりばめられているということ。家族問題、少年の成長、金銭トラブル、移民問題、社会の階層などこういうテーマは文化や国境を越えるのでは」と語った。