岩井俊二監督、約8年ぶりの長編作「ヴァンパイア」を語る
2012年9月14日 19:45

[映画.com ニュース] 「花とアリス」以来、約8年ぶりとなる岩井俊二監督の長編作品「ヴァンパイア」。自ら執筆した小説を原作に脚本、プロデュース、撮影、音楽、編集を兼ね、“岩井ワールド”を構築した。死を求める者と、命を奪わずにはいられない者。ひっそりと静かな世界を舞台に、“孤独な魂”によるはかない恋愛劇を独特の美意識で紡ぐ。キャリアを積みながら、常に鋭い観点とフレッシュな感性で作品と向き合ってきた岩井監督に話を聞いた。
今作は、岩井監督が温めてきたふたつの物語が合体したところから始まった。バンパイアという古典的存在と、自殺サイトという現代に巣くう闇を組み合わせることで、ひとつの幻想的な物語を生み出した。生まれたときから吸血衝動がある男の物語が生まれたのは、10年以上昔にさかのぼる。自殺サイトに集う少年少女と殺人犯のストーリーは、類似した事件が現実に発生してしまったため、封印されていた。
「アメリカで『ニューヨーク、アイラブユー』というオムニバス作品を撮っていたときに、スタッフと日本の犯罪の話をしたことがあったんです。僕が書いていた話と似た、自殺サイト殺人事件が起こったことを話していたときに、バンパイアの話とつなぐことで完成するということに気付いたんです。吸血衝動を持った男を描きたいというのが最初でした。異端児とレッテルを貼ってしまえばそれまでですが、人間誰しも人には見せたくない秘めた側面を持っている。そこに生きている男を描きたいと思った。自殺サイトの話は、被害者と加害者が不思議な共感や連帯を持ち、共犯関係にあるという図式が面白いと思っていたんです。どちらの話も長い間宙ぶらりんになっていたのですが、ふたつがひとつになった瞬間に広がったんです」
バンパイアという西洋色が強い題材に、岩井監督特有の死生観を組み合わせた。言語、文化の壁があるなかで、価値観を共有することに難しさはなかったのだろうか。「僕ら自身が西洋文化に洗脳されていて、日本独自のものを出す方が難しい。日本人にしかわからないセンスだと思っても、言い当てられてしまうことの方が多い。でも、エキゾチズムを出せないとやっている甲斐がないので、『一風違う』『テイストが違う』部分をできるだけ示したいと思っています。外国の人に見せるときは、日本人の監督らしいということを打ち出したいんです」と胸のうちを明かす。
さらに、「自分が納得、合点がいくかどうかでしか作品の良し悪しは推し量れない」という信念のもと、自らがひかれるテーマを、丹念に掘り下げていった。改めて今作を振り返ってもらうと、「血や命をやり取りする究極の取引で結ばれた不思議な人間関係」のなかで生まれる物語に魅力を感じたという。極限状態のなかで芽生える恋愛劇は、「花の茎を切った切り口がまだ生々しいように、そういうビビッドな感じ。自分自身がまだ見慣れていない」と岩井監督自身にとっても新鮮なテーマだった。「実際に血は登場するけれど、『ヴァンパイア』というタイトル自体がある種の比喩」と語る通り、孤独な人間同士の触れ合いに焦点を合わせることで、“吸血鬼”が主人公でありながら、典型的な“バンパイアムービー”とは一線を画した作品となった。
「ヴァンパイア」は、9月15日から全国で公開。
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