佐藤浩市「草原の椅子」主演で成島監督とタッグ フンザで世界初ロケ敢行
2012年7月9日 05:00
[映画.com ニュース] 俳優の佐藤浩市が、宮本輝氏の名作を成島出監督が映画化する「草原の椅子」に主演することがわかった。6月30日にクランクインした佐藤は、共演の西村雅彦、吉瀬美智子らとともに8月3日から約1カ月半にわたり、パキスタン・イスラム共和国のフンザ、カリマバード、スカルドゥなどで長期撮影に臨む。同地域での映画撮影は、世界初の試みとなる。
宮本氏は、阪神・淡路大震災で自宅を失ったことをきっかけに、その半年後に約6700キロ、40日間におよぶシルクロードを旅した。何もない荒涼とした大地を前に、人の生き方や品性などについて考えたことが、1999年に発表された「草原の椅子」へとつながった。
物語は、カメラメーカーの営業局次長として働く遠間憲太郎(佐藤)と、取引先である「カメラのトガシ」の社長・富樫重蔵(西村)の50歳を過ぎてからの友情を軸に描かれる。遠間と富樫は、何もない草原にぽつんと置かれた椅子の写真と出合い、なぜか心に突き刺さる。遠間の長女・弥生を介して出会った、母親に虐待されて育ったため心に傷を負った4歳の幼い少年・圭輔、遠間が密かに思いを寄せる骨董店のオーナー・篠原貴志子(吉瀬)を加えた4人は、その不思議な写真に桃源郷を見出し、圭輔や自分たちの未来のあるべき姿を探すため「世界最後の桃源郷」と呼ばれるフンザへと旅立つ決意をする。
ストーリーテラーとして定評のある宮本氏の作品の映画化は、岸谷五朗主演作「私たちが好きだったこと」(97)以来、実に16年ぶり。今回の映画化に際しては、舞台を大阪から、東日本大震災以後の東京へ変えている。宮本氏は、今作はフンザでの撮影が必要不可欠だと感じていたため、「日本の映画会社では不可能だと思っていた」という。それだけに喜びもひとしおで、「フンザの素晴らしさを日本の人々に映像として見せてあげたい。そこで繰り広げられる男たち、女たちのドラマというものを、私自身も楽しみにしております」とコメントを寄せている。
主演の佐藤は、宮本作品との縁が深い。深作欣二監督の傑作「道頓堀川」(82)や森繁久彌さん主演作「流転の海」(90)、ドラマ「青が散る」(83)に出演しており、宮本氏も感慨無量の様子だ。主人公・遠間に扮するが、富樫役の西村との共演に大きな刺激を受けているようで「西村さんとは同い年だから、鏡みたいに感じる。今回の現場は、芝居を一緒に作っていける現場なので、この世界を始めた頃にある郷愁がある」とコメントを寄せている。
今作は、心根の豊かな登場人物たちが何かを切り開こうとひたむきに生きる姿に迫ることで、「“おとな”とはどのような人間のことを指すのか」を問いかける。だからこそ、経験豊富なキャスト陣も「50歳になったらもう少し楽できるかと思っていたが、楽ではない。一緒に作品づくりをさせてもらっているという気持ちにさせてくれる素晴しい現場」(西村)、「素晴らしい監督とキャストのなかで芝居をするプレッシャーはあるが、なかなか行くことのできないフンザで撮影するのは楽しみです」(吉瀬)と、並々ならぬ意欲をみなぎらせている。クランクアップは、9月中旬を予定。
「草原の椅子」は、2013年春に全国で公開。
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