「チベット映画特集」開催 岩佐寿弥監督&椎名誠がチベットとモンゴル文化を語る
2012年6月17日 13:00
[映画.com ニュース] 岩佐寿弥監督のドキュメンタリー「オロ」の公開を記念し、チベットに関連する作品12本を一挙公開する「オロを知るためのチベット映画特集」が6月16日、東京・オーディトリウム渋谷で始まった。この日、作家・椎名誠がメガホンをとった「白い馬」の特別上映を記念し、岩佐監督と椎名氏によるトークショーが行われた。
1995年公開の「白い馬」は、モンゴルの遊牧民たちと生活を共にした経験を持つ椎名氏が、モンゴルの少年ナランの成長と草原に暮らす人々の暮らしを描いた物語。椎名氏は、乾燥させた家畜の糞を燃料とするなど、自然の産物をリサイクルしながら生きている遊牧民の暮らしを「エコロジーという意味で今の時代に合った生活。本当にたくましく、自然と融合して生きていると感じた」と撮影当時を述懐する。そして、「今は韓国資本が入ってきているので、遊牧民は腰のベルトに携帯電話を入れています。朝青龍の活躍で、ナーダム(モンゴル相撲)が盛り上がって、アメリカンドリームならぬジャパンドリームのようになっている」と近年のモンゴルの状況を説明した。
岩佐監督の「オロ」は、母親から離れ、6歳でチベットからインドへ亡命。チベット亡命政府が運営する施設で勉学に励む少年オロの亡命の道程を振り返り、自力で生きる道を探す姿をとらえた作品だ。椎名氏は、自由な作風の岩佐監督のドキュメンタリーを「自由な作り方でうらやましい」「娯楽作ではない小さな作品ですが、得るものは大きい。見て得をする映画」と評した。
岩佐監督は「チベット仏教でつながっている。モンゴルとチベットは日本人から見ればほとんど同じと言っていいくらい似ている」と2国の共通点を挙げる。そして、チベットに対する強い思い入れを「家族愛のあり方や、人の子も自分の子も変わらない愛し方、そういう空気が、僕が小さいときの日本にもあったと体で感じている」としみじみ語った。
「白い馬」も「オロ」も少年が主人公という共通点があり、自身の少年時代のエピソードを問われた岩佐監督は「11歳になる8月15日でボキッと折れて、大人の変わり様を見て屈折したのがついてまわっている。去年の3月11日にあの8月の再来を感じて、『国が壊れたな』と思った」と敗戦当時と東日本大震災を経験した際の心境を述べる。そして、過酷な状況に置かれているチベットという国と自身の体験とを重ね合わせ「チベットの少年を撮ったのは、あの頃(少年時代)の自分に会いたがっているという潜在意識を感じた」と明かした。
チベット本土に住む人々、ネパールやインドへ亡命した難民など、国境を越えて生きる人々の姿を描いた作品を集めた「オロを知るためのチベット映画特集」は22日まで。「オロ」は6月30日から渋谷ユーロスペースほかで公開。