「MY HOUSE」堤幸彦×坂口恭平 “家”から見る、現代社会の本当の幸せとは
2012年5月25日 15:00
[映画.com ニュース] ヒットメーカー・堤幸彦監督が、5年の歳月をかけこん身の思いで製作した本作は、「0円ハウス」で知られる坂口恭平氏が週刊誌に発表した、隅田川河川敷で、費用をかけずに建築した家に住みオリジナリティあふれる暮らしを営む路上生活者の記事をもとに企画された。これまでの娯楽作とは趣の変わった社会派の劇映画として“家”を通し、現代社会においての本当の幸せや自由とは何かを問いかける。
「トリック」、「SPEC」シリーズなどのエンタメ大作で知られる堤監督だが、青年期から常に社会への問題意識を持ち続けており、監督デビュー間もない90年にはオノ・ヨーコ主演でホームレスの生き方を描いた作品も発表している。ふたたび路上生活者に焦点を当てた本作への思い入れは深く、「もう50歳も半ばを過ぎたので、気持ちよく死ぬために、自分がずっと意識していることを作品にすべきだと思った」と話す。
劇中、公園に住む鈴本と仲間たちとは対照的に、一戸建てに住む裕福な家族が登場する。木村多江演じる主婦のトモコは、潔癖症で朝から晩までマスク姿で家の美化に余念がない。エリート中学生の息子のショータは成績優秀だが、子どもなりのストレスをためているようだ。「土地を所有したり、家を持っていることと彼ら(路上生活者)の間では何が違うのか。僕らは土地や家を所有することで、大変な労苦を背負うわけです。彼らにはそういうことはないが、暴力や権力、自然災害というリスクを背負う。トモコやショータも、僕が実際に見聞した話であり、決して変わった人たちではなく、身近にいる人間。両方がほぼ同時代、同じ地域に生きています」と、現代社会の一場面を切り取ったことを強調する。
堤監督のエンタメ作といえば、高度な映像処理と絶妙な音楽やセリフなど情報量の多いユニークな演出方法でファンを獲得してきたが、本作ではそのような作風を封印し、音楽なしのモノクロ映画として仕上げた。「色があると人間は考えていることで想像してしまうんです。ブルーのテントがあると、それはもしかしたらにおうんじゃないか、暑いんじゃないかと予断をしてしまう。そういうことをできるだけ排除したかったのです」。
建築を学んだ坂口氏は、学生時代から路上生活者の家と暮らしに興味を持ち、一軒一軒自ら足を運んで調査。各地の「0円ハウス」を集めた写真集が国内外で注目され、建築家以外に文筆家など多くの顔を持つ。
映画化にあたって、堤監督にリクエストしたことを聞いた。「脚本には何も言っていません。(主人公の住む)家は僕が書きたいということと、磁石を使って釘を拾うシーンは、敷地内では窃盗罪になるので外で拾うようにということをリクエストしました。それは鈴木さんを通して実際見たことだったので。あとはバッテリーの残量を確認するために、一度ショートさせるとか、ディテールにはこだわりました。“神は細部に宿る”と言いますしね」。建築家らしい答えが返ってきた。
モデルとなった鈴木さんは、本作をまだ見ていないのだという。映画館に行くことを躊躇(ちゅうちょ)している節もあると坂口氏が明かすと、すかさず堤監督が「じゃ、キリンビール(本社ビル)の壁にぶちあてたら?」、「そうですね、パブリックビューイングで!」(坂口)と、型にはまらないふたりのなんとも自由なやりとりが繰り広げられた。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
【推しの子】 The Final Act NEW
【知ってるけど、ハマってない人へ】今が新規参入の絶好機!この作品で物語の最後まで一気に観よ!
提供:東映
モアナと伝説の海2 NEW
【私&僕が「モアナ」を選ぶ理由】音楽も物語も大好きな傑作の“超進化最新作”絶対観るでしょ!
提供:ディズニー
テリファー 聖夜の悪夢 NEW
【全米が吐いた】鑑賞し失神する人が続出、なのに全米No.1ヒット…なんで!? 人気の秘密を徹底解剖
提供:プルーク、エクストリームフィルム
アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師
【ナメてた公務員が“10億円詐欺”を仕掛けてきました】激推ししたい“華麗どんでん返し”映画
提供:ナカチカピクチャーズ
犯罪が起きない町で、殺人事件が起きた――
【衝撃のサスペンス】AIで守られた完璧な町。なぜ事件は防げなかったのか? 秩序が崩壊する…
提供:hulu
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。