ナ・ホンジン監督、プレッシャーはねのけ到達した新たな境地「哀しき獣」
2012年1月6日 17:15
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[映画.com ニュース] 長編デビュー作「チェイサー」(08)で世界を震かんさせ、脚光を浴びたナ・ホンジン監督の最新作「哀しき獣」が、ついに日本公開を迎える。第24回東京国際映画祭アジアの風部門で上映され、話題をさらった本作についてナ・ホンジン監督に聞いた。
中国・延辺の朝鮮族自治州で、どん底の生活をおくるタクシー運転手グナム(ハ・ジョンウ)。賭博(とばく)で膨らんだ借金の取り立てに追われ、韓国に出稼ぎに行った妻とは音信不通の状態が続いていた。行き詰まったグナムは、殺人請負業者のミョン(キム・ユンスク)から借金返済のために殺人を依頼され、黄海を渡って韓国へと密入国するが……。
ナ・ホンジン監督の才能にほれ込んだハリウッドメジャースタジオFIP(フォックス・インターナショナル・プロダクションズ)から出資を得るなど、韓国映画史上初となる偉業を成し遂げた本作。「本当にプレッシャーを感じていた。『チェイサー』はとても古典的な映画で、そういう作品には圧倒的な力がある。もちろん、それを越えるものを作りたいと意気込んでいたけれど、もし前作に劣ってしまったらどうしようという不安はやっぱり大きかったよ」と率直な胸のうちを明かした。
そんな大作ながら、主人公は犯罪に身を染めていく朝鮮族の青年という、社会派の側面も持ち合わせている。「朝鮮族の人々をありのままに描写して、等身大の彼らを表現したつもり。私としては朝鮮族の人々のことをもっと知ってほしいという肯定的な気持ちでこの映画を作った」と話す。しかし、「朝鮮族のことをここまで語ることができるのは、ここが日本だからというのもある。彼らを語るには、彼らを取り巻く犯罪に関しても言及しなければならない。それらを歪(わい)曲して報道されるのを恐れ、口を閉ざしてきたんだ。彼らに対する誤った認識を韓国の人々に植え付けるのを強く懸念していたから」と苦悩の色もにじませた。
そうして前作の主演2人と再びタッグを組み、前作をしのぐ衝撃作を完成させた。「あらすじの大枠を作った時点で、2人をキャスティングしたいと思っていた。シナリオはあて書きしたかったので、電話でオファーをしてすぐに決めたんだ。二人は紛れもなく素晴らしい俳優。『チェイサー』とは全く違う作品にできると、確信をもってシナリオを書くことができたよ」と起用の経緯を語った。
250シーン5000カットという膨大な素材を生かしながら、息をもつかせぬアクションとスピード感あふれるストーリー展開で観客を圧倒する。しかし、ホンジン監督にとって「アクションはあくまでキャラクターの心情を表現する道具」だと言う。「私が映画を作るうえで最も大事にしているポイントは、登場人物の内面やその背景。あくまで人物や物語を中心に脚本を構成している。こういう感情を伝えたい、それにはどういった表現方法が適切なのかという具合に考える。それがアクションにつながったり、セリフにつながったりするんだ」と持論を語る。
徹底的なバイオレンス描写を追求しながら、その先にあるものを描こうとする。「素晴らしいバイオレンス作品が過去にはたくさんある。映画とは生命力の強いものだから、その製作者がいなくなっても作品として後世残り続ける。正直出尽くした感はあって、過去の傑作に追いつくのは難しい。だからこそ、いまだに世界中の昔の映画から学ぶことは多いよ」と探究心は尽きない。また、「日本語が理解できないのでタイトルも分からないのだけど、かなりの数の日本の暴力映画を見て勉強してきた。韓国では、日本映画を輸入できなかった時代があったから公で見ることができない作品もあったけど、子供のころ陰でコソコソ見ていたんだ」とほほ笑んだ。
「哀しき獣」は、1月7日から全国で公開。
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