樹木希林、レッドカーペットを疾走 「わが母の記」評判は上々
2011年8月28日 17:45
[映画.com ニュース] 原田眞人監督の最新作「わが母の記」が8月27日(現地時間)、第35回モントリオール世界映画祭のワールド・コンペティション部門で公式上映された。当初は原田監督の長男で同作の編集を担当した原田遊人氏のみの参加を予定していたが、出演する樹木希林が夏季休暇でカナダを訪れていたため、本木雅弘・内田也哉子夫妻の長男で孫の内田雅楽くんとともに、急きょ飛び入り参加。樹木と原田氏がレッドカーペットを駆け下りるひと幕も見られた。
公式会見では原田氏が、主演の役所広司とともに新作の撮影に入っているために欠席した原田監督のメッセージを代読した。クランクイン翌日に東日本大震災が発生したことに触れ、「日本が第二次世界大戦以後最大とも言われる暗闇に覆われているなかで、この作品のポストプロダクションは進んでいきました。余震だけでなく、地震と津波の後遺症が依然として生活を脅かし、飲み水の確保や停電が何度も続くなか、作業は行われたのです」と振り返る。
また、自身のキャリアのなかで最も重要な作品になりつつあると言及。「60歳になり、小津安二郎を、そしてイングマール・ベルイマンを、ようやく再発見することのできた自分、という点が少し。そしてこの作品には、原作者である井上靖、ベルイマン、そして小津のなかに生きる母親像についての意識という点が決定的に大きかったと感じています」。鑑賞したファンには「できれば、作品を見に来てくださったあなたたちにこの場で直接挨拶をしたかった。そして、1996年にモントリオールで撮影した『栄光と狂気』という作品のスタッフ・キャストと旧交を温めたかった」とコメントを寄せた。
同作は、国民的作家・井上靖が47年前に執筆した「わが母の記~花の下・月の光・雪の面~」3部作(講談社文芸文庫所蔵)をもとに、愛し続けることの素晴らしさ、生きることの喜びを描く、10年にわたる家族の物語。「クライマーズ・ハイ」など社会派監督として知られる原田監督にとって、親子愛という初めて手がけるテーマとなり、時代に先駆け「老い」と「介護」の問題に焦点を当てている。
役所、宮崎あおいとともに親子3世代を演じた樹木は、会見で日本映画のファンから“薄れゆく記憶”について問われると「正常なときと不安定なときの差というのは、何も難しいことはなくて、それは私がふだんからそうだから」と答え、場内の爆笑を誘うなど“樹木節”をさく裂。また、05年に乳がんを患ったことについても「本来、役者は健康なほうがいいんです。役以外では病気はないほうが絶対にいいんです。ただ、病気をしたことによって、人の弱さというものが以前よりわかるようになった」と自らの実体験を述懐した。
この日の夜にTheatre Maisonneuve, Place des Arts(1453席)で行われた公式上映には、1回目の上映で話題を聞きつけた幅広い客層が駆けつけた。エンドクレジットが流れ始めると大きな拍手が沸き起こり、原田監督のクレジットが表示された際にはさらに大きな拍手がおくられた。これには原田氏と樹木も感慨深げ。上映終了後には大勢の観客に囲まれ、サイン攻めにあっていた。
授賞式は、8月29日(日本時間)の午前8時から行われる。
「わが母の記」は、2012年に全国で公開。