「死刑台のエレベーター」緒方明監督「映画史をしっかりと継承していきたい」
2010年10月8日 16:20

[映画.com ニュース] 2000年の「独立少年合唱団」でデビュー以来、「いつか読書する日」「のんちゃんのり弁」など常に濃密な人間ドラマを描き、国際的に高い評価を得てきた緒方明監督。長編4作目となる新作「死刑台のエレベーター」では、フランス・ヌーベルバーグの巨匠ルイ・マル監督の同名映画(58)のリメイクに挑戦した。
「非常にリスキーな仕事だということはわかっていましたけど、映画ファンとしてやるべき作品だと思いました。これくらいの大きなプロジェクトとなると、僕がやらなかったら誰かほかの監督がやるというのはわかっていましたからね。逃げたとか言われるのもいやだし(笑)、ちょっと火中の栗を拾ってみようかなと思ったわけです」
舞台は現代の横浜。巨大医療グループの社長夫人・芽衣子(吉瀬美智子)は愛人関係にある医師・時籐(阿部寛)とともに、夫を自殺に見せかけて殺害する完全犯罪を企てる。だが、時籐は社長殺害後にエレベーターに閉じ込められ、2人の完全犯罪に狂いが生じていく……。
「オリジナルからはストーリーと人物設定だけをもらいました。ですが、いわゆる男女間の恋愛の有り様や、人間の感情の有り様が50年前と今では変わっているわけです。今回のリメイクで最も注意した点はそこでした。たとえば、エレベーターからの脱出などの物理的なことは知恵を使えば何とかなるんですが、不倫の果てに人を殺してしまうということは、50年前と現代ではまったく意味合いが違うわけです。おそらく不倫の概念そのものも変わっているでしょう。そこをリアリズムで埋めていく作業っていうのが、演出家としては一番気を使ったところですよね」
「死刑台のエレベーター」というと、条件反射的にマイルス・デイビスのジャズトランペットを思い浮かべる音楽ファンが多い。だが、本作では最初から「ジャズは使わない」と決めていたという。
「実は製作サイドから、メインの旋律はジャズではなくギターでいきたいと言われてました。それにリメイクといえども、映像、音楽、演出は完全に僕らでやっていくしかないわけであって、オリジナルのマネではいけないわけです。もちろんマイルスのジャズは魅力的ですが、それはルイ・マルの世界観、演出なんです。こちらとしては、やはり大人向けの娯楽映画として、バーナード・ハーマンなど60年代ハリウッドで活躍した作曲家たちによる、音が前に出すぎないオールドスタイルの映画音楽を意識しました。といいつつもオリジナルの精神だけは拝借しようと思い、オーケストラ部分と別録りだった渡辺香津美さんのギターパートは即興的に演奏してもらったんですが(笑)」
長編監督デビューから10年を経て、初めて本格サスペンスに取り組んだ緒方監督。自らを「映画ファンの成れの果て」と称するだけあって、ジャンル映画の演出にも意欲的だ。
「僕は自分で企画を立てて、脚本を書いて、撮るタイプではなくて、どちらかというとオファーを受けて撮るタイプ。なので、その中でいろんな映画を試して、映画監督としての自分らしさっていうのは何なのかを追求していきたいと思っています。今回も、一応シネフィルとして、ヒッチコック、ポランスキーを見直して『新しい映画を作るためには古い映画をきちんと知っていないといけない』ということを再確認しました。残念ながら、今はいろんな映画がある中で、TVドラマ的な作り方が方法論、演出を含めてはやっていますが、自分としては、やはり映画史をしっかりと継承できるような映画を作っていきたいですね」
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