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内包された“怒り”を燃やし尽くしたヤン・イクチュン監督「息もできない」

2010年3月26日 20:13

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ゴダールの「Bleathless(勝手にしやがれ)」 を凌ぐ出来映え
ゴダールの「Bleathless(勝手にしやがれ)」 を凌ぐ出来映え

[映画.com ニュース] 昨年の第10回東京フィルメックスで史上初となる最優秀作品賞と観客賞のダブル受賞を果たしたほか、ロッテルダム国際映画祭のグランプリなど各国映画祭で25以上の映画賞に輝いた韓国映画「息もできない」が公開中だ。本作で監督、脚本、主演、製作、編集の1人5役を務めたヤン・イクチュンがインタビューに応じた。

父への怒りと憎しみを抱えて社会の底辺で生きてきたチンピラのサンフン(ヤン)が、心に傷を抱える勝気な女子高生ヨニと出会い、愛を学んでいく姿を描いた人間ドラマ。劇中の役どころ同様、家庭内暴力に苦しんだヤン監督は「自分の家族についてのもやもやした気持ちをすべて吐き出したかった」と語る。

「僕の場合は両親が嫌いだったし、彼らとの関係に常にもどかしさを感じていた。だから、そのまま同じように暮らしていたら、一生悩んでいるような気がして、それを振り切るためにこの映画を撮ったんです」

そんなヤン監督の創作の源は“怒り”だという。その言葉通り、同作には個人、家族、社会、そして国家へ向けた激しい怒りが全編にわたってみなぎっている。

「人間というのは誰もが弱い存在で、そのほとんどは権力者や金持ちに対抗することができない。だから、そのしわ寄せが弱者に向かってしまう。それは社会でも、家庭でも、個人レベルでもそうだと思います。韓国では、国民が個人の幸せを追求することを認める前に、国家が国民に愛国者となることを強要するような風潮がある。この息苦しい空気が、僕らの両親を圧迫し、家庭にも影響を与えていたと思うんです」

“怒り”の感情をそのまま人間にしたような主人公サンフンをはじめ、強気なヨニとその弟ヨンジェら、ストーリーが進むにつれ、それぞれのキャラクターから悲しい過去や背景が浮かび上がってくるが、ヤン監督が描きたかったのは「あくまでも人間そのもの」だという。

「ひとりの人間というのは、それだけで生まれてくるわけではなく、両親がもつ歴史やそのときの動かしようのない社会背景とともに生まれてくるものです。だからといって、僕が社会的な背景や歴史を描こうと思ったということはなく、ただただ人間を描くことに専念したかったんです。実際、僕にはそれほど知識や教養がないので、そういった社会的な背景や歴史を描こうと思ってもなす術がなかった。もし、観客の皆さんがこの映画を見て韓国の歴史や社会的背景を感じるのならば、それはそれでうれしいですが(笑)」

自宅を抵当に入れ、嫌いだった両親からも資金を借りて、執念で完成に漕ぎ着けた。公開された現在は家族との関係も変わってきたそうだ。

「とても皮肉なことですが、私の家族は、この映画ができたことによって和解に向かっているんです。“怒り”から始まったものだったのですが、映画を製作し完成させたことで、自分の内面も家族との付き合い方も変わりました。ただ、ひとつ心配なのは“怒り”を燃やして生きてきた僕のような人間から“怒り”がなくなったら、どうなってしまうのだろうということです(笑)」

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