イスラエルの地で生き延びた少年の半生を綴る「約束の旅路」
2007年3月6日 12:00
84年、イスラエルと米国の指揮のもと、アフリカはエチオピアに暮らすユダヤ人をイスラエルに帰還させる「モーセ作戦」(「十戒」のモーゼのこと」)が展開され、8000人がイスラエルに渡る。しかし、その途上、飢えや疲労、襲撃や拷問で4000人が命を落とした――。間もなく公開となる「約束の旅路」は、貧困から生き延びるために自身をユダヤ人と偽り、モーセ作戦によってイスラエルに脱出するようにと母に命じられた9歳の少年が、イスラエルの地で故郷に残した母を思いながら、少年から青年へと成長していく姿を描いた叙事詩。本作のラデュ・ミヘイレアニュ監督に話を聞いた。
監督は、実際にモーセ作戦によって生き延びたエチオピア系ユダヤ人(通称ファラシャ)の男性と出会い、その話を聞くうちに、モーセ作戦によってイスラエルに移住した人々の苦境を知り、本作の製作を決意する。イスラエル政府によって迎えられたはずの彼らは、必ずしも歓迎されてはおらず、様々な差別を受けることもある。しかし、本作は決してイスラエルの移民に対する政策や人民を批判するものではなく、主人公が祖国の母を思い、養父母やその家族、恋人や友人たちに見守られながら成長していく姿を描く、普遍的な人間愛の物語となっている。「イスラエルはとても複雑な国。ファラシャに対する差別があったとしても、イスラエル国民全てが人種差別主義というわけではありません。国家に対する論を演じるならドキュメンタリーでやればよいのであって、フィクションを描くときは、ひとりの人物が運命とともに旅をする姿を描くことで、観客に感情移入してもらえるのです」
主人公シュロモは自身がユダヤ人だという偽りを誰にも明かすことができず、アイデンティティーに苦悩する。監督は「個々のアイデンティティーが揺さぶられたとき、人は自分の周りに壁を作ってしまう傾向もありますが、私が大切だと思うのは、そうしたときに異文化を拒否したり、逆に自身のアイデンティティーを否定するといった両極端に走るのではなく、両者の一番よいバランスを見つけることです」と語る。「自分の国籍やアイデンティティーに誇りをもち、他者のよいところを学び、自分を豊かにしていく。そして自分の文化の良いところを人に与える。人は、そのように生きていかなければならないところまで、きていると思います」
「約束の旅路」は、3月10日より岩波ホールにて公開。