劇場公開日 2024年7月12日

「藤と森山のW主演」大いなる不在 コショワイさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5藤と森山のW主演

2024年9月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

1 認知症が引き起こす家族関係の変化を描く人間ドラマ。

2 「藤竜也が本作の演技で外国の映画祭の男優賞を得た」との新聞記事を見た記憶がある程度の認識で見に行くと、そこそこ人が入っていた。粗筋は次のとおり。
 主人公は元大学教授の藤とその息子の森山。藤は森山が小さい頃家庭を捨て、今の妻と再
婚。そのため森山と藤の関係は希薄で、二人の再会は藤の出奔後20数年を経てからのこと。それから数年後、森山は遠く離れて暮らす藤が前後不覚の状態で保護されたとの連絡を受けた。認知症であった。森山は藤を施設に入所。藤の自宅内部は荒れていて、妻は不在だった。そして・・・。

3 映画は現在と過去を行きつ戻りつながら、三つのことを描く。一つは、藤の認知症の進行具合。そして、愛情深く尽くしてきた妻の心が切れ決別してしまう夫婦の姿。二つは、森山の心中に長らく不在であった父との絆を繋ぐとともに父の足跡を辿ろうとする子の姿。三つは、藤の妻の行方探し。

4 本作の特徴は、第一に構成が独特であった。冒頭の緊迫感、前後する時系列。第二に印象的なショットの数々。①胸の痛みで倒れた藤の妻が離れていく藤の足元を窓越しに見るときの絶望的な目のアップ、②森山が義母の郷里で海岸に寝そべりながら藤が出奔前に書いたラブレターを読むシーン、③藤と決別した妻が郷里を彷徨い夜の海辺に佇むシーン。第三に謎めいたストーリー。森山が義母の行方について、義母の息子から義母の妹宅にいると聞き、そこを訪ねたが、妹からはいないと言われた。一つ前のシーンでは庭で姉妹が語らっていたが、これは姉が藤の家を出た直後と思われる。その後も姉は彷徨いその行方は謎のまま残された。

コショワイ