「目の前の不在と30年の実在」大いなる不在 uzさんの映画レビュー(感想・評価)
目の前の不在と30年の実在
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物質としての存在と事象としての存在、そしてその喪失を扱った作品と感じた。
正直、ストーリーと呼べるほどのものはない。
過去と現在をシームレスに行き来しながら、親子や夫婦など様々な関係性が描かれていく。
冒頭の警官隊の突入(何をどう言えばあんな部隊が来るのか)や直美の行方などは、映画的な“惹き”でしかない。
本質は“知ろうとすること”と“忘れてしまうこと”。
卓にとって元々断絶に近かった父は、痴呆によってより掴みどころのない存在になってしまう。
それでも母の死を伝えようとするぐらいにはまだ“親子”だったのだろう。
直美の日記や関係者との会話、そして父の残したメモから少しずつその実在を掴んでいく。
ベルトを譲る直前だけ「父さん」と呼べたのは、多少なり象を得られた証だろう。
対して直美の立ち位置は非常に苦しい。
宝物である手紙と、それに対する想いを読み聞かせてすら、「あなたは誰だ」と言われてしまう。
普通ならイチャイチャに感じる「スベスベ」のシーンにかかる不穏なBGMなどもあまりに的確。
妹のもとへ行くことは陽二も了承の上だったようだが、それにあたりどんな会話があったのか…
ひたすら重い流れの中で、終盤の位牌おじぎは癒し。
キャストに関しては基本文句なしなのだが、夕希だけは他の人がよかったかな。
真木よう子がダメだったわけではないが、立ち位置的にビジュアルが強すぎるんですよね。笑
手紙や台本の朗読など文学的すぎて掴みづらいのは難点。
ただ、老齢の両親を抱える身としては色々と感じるところのある作品でした。
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