劇場公開日 2025年8月1日

「地球人にも悪い奴はいるし、エイリアンにもいい奴はいる」星つなぎのエリオ おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 地球人にも悪い奴はいるし、エイリアンにもいい奴はいる

2025年8月4日
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『鬼滅の刃』の観客で溢れかえる劇場を横目に(入り口付近が『鬼滅の刃』開場待ちの人で混雑しており、別の映画を観にきた人が入りづらいのはどうにかして…)、公開二日目に本作を観に行った。
しかし、いざ中に入ってみると席の埋まり具合は半分以下で、『鬼滅の刃』の盛り上がりと比べてしまうと少し寂しく感じた。
それでも、結論から言えば、この作品は『鬼滅の刃』よりも自分の好みに合っていた。

映画は、主人公の少年エリオと親代わりのオルガがレストランでメニューを選ぶシーンから始まる。
たった数分のこの場面で、エリオが両親を亡くしてから心を閉ざしていること、オルガが夢を犠牲にして彼を育てているものの、反抗的な態度に苦悩していることが、無駄のない演出で的確に描かれていた。
予想外にシリアスな始まりに、冒頭から一気に引き込まれた。

若い女性が夢を諦めて子どもを育てることや、孤独なエイリアンと友情を育む展開は、今年公開の『リロ&スティッチ』を想起。
しかし、人間ドラマの深さという点では、本作の方が優れているように感じた。

天才集団ピクサー制作、しかも今回は監督3人体制。
ピクサー作品を観るたびに感心するが、今回も随所にアイデアが満載で、思わずニヤリとさせられる演出が多かった。
おかげで最後まで飽きることなく、楽しい気分で鑑賞できた。

特に印象的だったのは、エリオの眼帯。
物語の途中でいじめっ子との喧嘩が原因で眼帯をすることになるのが、最初は少し強引な展開に感じた。
しかし、後半になるとこの眼帯が「真相にたどり着く鍵」「恐怖演出」「感動要因」として機能し、その巧みな脚本に感嘆した。

また、地味な点ではあるが、オルガがスマホで絵文字を打つシーンだけで、エリオに対する複雑な心境が表現されているのには唸った。

日本の映画、特に学園ものを観ていると、登場人物が美男美女ばかりで「これって堀越学園が舞台?」とツッコミたくなるほど、リアリティが軽視されているように感じることがある。
その点、本作のキャラクターは、見た目が観客に媚びなていなくて素晴らしい。
エリオの親代わりとなるオルガは、日本映画であればもっと美人に描かれがちだろう。
また、友情を育むことになるエイリアンのグロードンは、目のない巨大なイモムシで、一見するとRPGに出てくるような「雑魚キャラ」。
しかし、この映画を観てグロードンを「キモい」と感じる人はいないだろう。
見た目は独特でも、ちょっとした仕草やセリフで、愛嬌のあるキャラクターに見せることに成功している。
日本語吹き替え版の声優の演技も、その魅力を引き立てていた。
個人的には、グロードンの「…やっちゃったね」というセリフがツボ。
グロードンが号泣するシーンのアイデアにも唸らされた。

地球では同世代の子供にいじめられていたエリオが、エイリアンのグロードンとはすぐに意気投合する。
日本人にも悪い人間はいるし、外国人にも善い人間はいるはずなのに、「日本人は素晴らしい、外国人はひどい」といった、国籍で人の良し悪しを決めつける風潮へのアンチテーゼのように感じて、納得と同時に爽快感を覚えた。

また、嘘をつくと信頼を失い、正直に話せば状況が好転するという展開も、子供も観るアニメとして非常に良いメッセージに感じた。

エリオの嘘によって星が壊滅の危機に瀕し、彼は周囲から冷たい視線を浴びる。
それでも、命の危機に瀕したエリオを、星の代表者が見捨てることなく助けようとする展開に思わず感動してしまった。
「罪を憎んで人を憎まず」という言葉を思い出した。
悪事を働いた人への罰ばかりを求めるSNSの反応を見かける昨今、こうあってほしいと願うような、深いテーマを描いているように感じた。

終盤のスローモーションの使い方にも感動した。
これまでの多くの映画でスローモーションは観てきたが、本作は問題が解決し、皆と喜びを分かち合うエリオの表情の変化をスローモーションで見せる。
エリオの感情の変容が強く伝わってきて、場面は盛り上がっているのに、切ない気持ちが込み上げ、涙腺が緩んでしまった。
これほどまでに心を揺さぶるスローモーションは、今まで観たことがなかったかもしれない。

今回、翻訳機がなければ言葉が通じず、問題は解決できなかっただろう。
言葉の重要性を感じた一方で、当初は滑稽に感じていた地球式の挨拶が、終盤の別れのシーンでは翻訳機を使わず、各星の代表者がぎこちないイントネーションでエリオに伝えることで、大きな感動を生み出していた。
言葉の壁を越えた心の通い合いが、見事に表現されていたと思う。

おきらく