「宇宙で出会ったもう一人のボク」星つなぎのエリオ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
宇宙で出会ったもう一人のボク
ピクサーの最大の魅力はオリジナル作品。見た事もない世界、ユニークで魅力的なキャラ、ワクワクと感動のストーリー。
2000年代は最強だった。毎年のように魅せてくれた。
いつの頃からか続編が多くなり、オリジナルと続編が交互。どうしても続編モノに人気とヒットが偏ってしまうが、それでも近年もオリジナルの良作を作り続けている。
そんなピクサーが贈る、新作オリジナルの世界は…
宇宙。
色んな世界を魅せてくれてきたピクサーだが、宇宙は初。まだピクサーにもフロンティアがあったとは…!
…え? 『バズ・ライトイヤー』? まあ、あったね。
メイン舞台となる様々な星の代表が集う“コミュニバース”。
これまでとはまた違う“ピクサー宇宙”。
ユニークとイマジネーションいっぱい。カラフルな映像美。夢もいっぱい。
異星人の造型も固定観念には囚われず。広い広い宇宙には多種多様な種族がいる。彼らから見れば地球人こそ個性的に感じるかもしれない。
言うまでもないさすがのピクサー・クオリティー。未開拓だった宇宙でも本領発揮。
ファミリー向けアニメーションの空想宇宙に過ぎないかもしれない。それに、宇宙=SFのイメージ。
しかし、宇宙はこの空遥か高く実在している。
我々は宇宙の事なんてほんのほんのほんのちょっとだけしか知らない。その果てしない先には何があるのか…?
本作や数々の作品で描かれてきた宇宙も、あながち的外れではない…かもしれない。突飛な世界やそれが宇宙では“普通”だったり…?
誰がそれを否定出来よう。だから我々は永遠に宇宙に魅せられるのだ。
ビジュアルやイマジネーション抱かせる作りは申し分ナシ。
ストーリーもソツが無いと言えよう。
両親を亡くしたばかりの少年エリオ。学校でいじめっことトラブルを起こし、引き取った軍人の叔母オルガとはすれ違いが続く。
ある時から宇宙に憧れるエリオ。宇宙人さん、僕を宇宙に連れてって! エイリアン・アブダクションを望むヘンな子と思わないよーに。
そしたら本当に宇宙から招待が…! 正確に言うと、50年前に打ち上げた観測機ヴォイジャーのメッセージを受け取り地球に興味を抱いていたコミュニバースが、たまたまエリオの宇宙への無線通信をキャッチし、しかも“地球代表”と勘違いしてコミュニバースに招待…という事。まあ、言いたい事やツッコミは多々あるだろうが、そこは寛容に。
コミュニバースは好戦的な異星人グライゴンと揉めていた。コミュニバースの一員になりたくてついついでしゃばったエリオがその交渉役に。
地球の特使でもなくましてや何の取り柄もない内向的な子供がとんだ大役を…。
グライゴンの巨大宇宙船内でエリオが会ったのは…
グロードン。グライゴンの息子。
好戦的な父親と違って、グロードンはおとなしいあどけない性格。
そんな性格故、父親から愛されてないのでは?…と悩む。
グライゴンたちは本当は芋虫のような姿。成人したら特殊強力アーマーを着て戦士になるのがしきたり。
戦士になりたくないグロードンだが、ほぼ強制。グライゴンもグライゴンで息子との向き合い方に悩む。
あれ…? どっかの甥と叔母の関係に似ている…?
壮大な宇宙の中で語られるのは、パーソナル物語。
宇宙で出会ったのはもう一人のボク。家族の絆。
グライゴンとの交渉の切り札として、グロードンと結託。
グロードンのクローンを作ってアーマー装着させようとするが…、グライゴンはちょっとした言動から偽者である事に気付く。
その時のグライゴンの台詞が良かった。「父親だからだ」
嘘がバレ、コミュニバースで大暴れするグライゴン。本作のディズニー・ヴィランだが、不器用な父親でもある。本作でも最も儲け役のキャラだろう。
コミュニバースを危機にしてしまい、エリオは追放。戻りたくなかった地球へ戻る。
叔母と再会。その時の叔母の台詞が良かった。「あなたの全てが恋しかった」
グライゴンの巨大宇宙船内の小型宇宙船に身を隠していたグロードンだが、間違いから宇宙に放り出されてしまう。地球へ。軍に捕まる。
エリオと叔母はその救出。グロードンを父親の元へ。
コミュニバースの危機を救う。コミュニバースとグライゴンの関係緩和。グライゴンとグロードン。エリオと叔母。さらにはエリオといじめっこ。そして勿論、エリオとグロードン…。
エリオ以外の宇宙に憧れている地球各地の“孤独者”の協力も描き、ラストは見事に昇華する。
忘れてならないナイスキャラは、エリオのクローン。オリジナルのエリオとは違う“普通のいい子”。それを怪しんだ叔母に正体がバレ、危うし!…と思いきや、
彼の別れの挨拶は『ターミネーター2』以来最高のグッドサイン!
宇宙×家族で相変わらずの安定ぶりを魅せてくれたピクサーだが、ベストではなかった。難点もあり。
最たるは、エリオのキャラだろう。主人公でありながら共感しづらい。
孤独っこなのか、わがままなのか、トラブルメーカーなのか、ピュアな子供なのか…。キャラ設定の焦点が定まってない気がした。
両親を亡くしたばかりの子供の孤独、子供故の無邪気さ、最後は成長…とも見受けられるが、これまでのピクサーはもっとキャラ描写は巧みだった筈だ。
グロードンも。勿論キュートだけど…、ちょっとリアルさが仇になってさすがに虫嫌いの子供や親には好き嫌い分かれるだろう。ぬいぐるみとかになってこれまでのピクサーキャラのように人気になるかな…?
エリオと叔母もしくはグロードンとグライゴンの当初のぎこちない関係、友情、和解、ハートフルな感動など普遍的だが、既視感あり。“見た事ない宇宙”のビジュアルも。
なので実は最初見る前、ピクサー新作だからとりあえず観ておこうって感じで、特別惹かれるものや秀でたものを感じ得なかった。
だからなのか、全米では批評は概ね好評だが、興行は苦戦。ピクサーワーストになりそうな…。実写『リロ&スティッチ』からの“ヒットつなぎのエリオ”になれなかった。日本でも『鬼滅』『国宝』『TOKYO MER』の強力3本柱に苦戦しそう…。
でも、実際見てみたら…。
当初の期待値低めから思いの外。
ピクサーベストではないが、良作。
宇宙にあった居場所と友達。
宇宙へ向けた視線をもう一度下に向けてみて。
改めて気付く筈だ。
自分の本当の場所、傍にいてくれる存在。
あなたは決して独りじゃないと。
