「1994年11月頃上映開始前日のテスト試写にて」ギルバート・グレイプ なおさんの映画レビュー(感想・評価)
1994年11月頃上映開始前日のテスト試写にて
何この子すごすぎる…。観終わってディカプリオは天才だと確信した。当時まだ10代とはいえ、こんなのアカデミー賞(助演男優賞ノミネート止まり)取らなかったのおかしいだろ、と思ったが、相手がトミー・リー・ジョーンズ(『逃亡者』)なら仕方ないか。まさか『レヴェナント』まで20年以上かかるとは思わなかったけど。
90年代のジョニー・デップは最高だった。八方塞がりな日常を送るナイーブな青年ギルバート役がぴったり。こういう等身大の人物が葛藤/逡巡しながら境界線上をふらふらする役をもっとやって欲しかったが。
お母さん役ダーレン・ケイツは体格以上の存在感。2017年に亡くなった際にディカプリオが追悼コメントを出していて、彼にとっても大きな存在だったのだろうな、と改めて感慨深かった。
ジュリエット・ルイスはブチ切れた役(ほぼほぼナチュ殺)の印象が強いが、ここではちゃんとした不思議な役だった。くすんだギルバートの世界に色をつけて、家族への義務感でがんじがらめになっていた心を解放してくれた。
あとで気がついたが、ジョン・C・ライリーも出てた。
ラッセ・ハルストレム言いにくい。
コミュニティの一員と来訪者/放浪者の関係性は『サイダー・ハウス・ルール』や『ショコラ』でもストーリーの中心にあったので、監督はそういうのが好きだったのかな、と後から思った。今は請負というか雇われ監督感が強くなっちゃったけれど(しょんぼり)。
これを観ていなかったらこんなに映画を観るようにはならなかったと思う。
2023/10/15 劇場で再鑑賞。うわあ、29年ぶりだあ!
初見時に心動かされたことは間違いでないと確かめられて、嬉しかったし安心した。どこへだって行ける、という言葉に改めて勇気をもらった。あと、勘違いしていたけど、これはミラマックス作品ではなかった。ハルストレム監督の次作『サイダー・ハウス・ルール』のポスターにはミラマックスのロゴ入ってるけど、こっちはパラマウントですね。
アーニーの一見カオスのような言動だって、時折背後にある感情や思考や家族への愛情が透けて見えるように思えてくるし、そう思わせるディカプリオのすごさに震える。
エンジンが直らなくてちょっとだけ嬉しそうにするギルバート。アーニーに振り回されることというよりは、むしろ自分の気持ちの揺らぎに狼狽えるギルバート。突飛なキャラクターでなくたって、ちゃんとできる子だよ、ジョニーは。まるで賢者のような聡明さのベッキーだけど、決して「昔からこんな風では」なかったんだろうな。
見直して初めて気がついたのが、床の掃除から地下室の出来事につながる一連の流れなど、エピソードのつながりの巧みさだろうか。プールとか大手スーパーとか給水塔とかさりげない小道具が物語を動かすネタになっていたりする。
あえて欠点を探すなら、何をどれだけ書いても、本作の魅力を全然伝えきれない気がすることか。