「難しい映画だった。2つの意味で。」オッペンハイマー TSさんの映画レビュー(感想・評価)
難しい映画だった。2つの意味で。
公開から1週間以上経ってようやく映画館に観に行くことができた。
いつものとおり、できる限り事前知識を入れずに観たのだが、一言で言うと「難しい映画」である。
■難しい① 映画のスジの理解が難しい
学者を中心に登場人物が多いが、誰が誰なのか、何をした人なのか説明がほとんどないので、主人公との関係性、マンハッタン計画との関係性がよくわからない。
また、オッペンハイマーの聴聞会の目的はおおよそ理解できたが、ストロースの公聴会は何のためにやっているのか、見終って検索するまで意味がわからなかった。米国の閣僚の選出過程など知らなかったので、何のための公聴会なのか理解出来なかったのだ。私と同じように、事前知識がなくて細部の理解が追いつかなかった人も多かったのではないだろうか。
それから、時制行ったり来たりで、実際に起こった事象の時系列がわからなくなる場面が何度かあった。聴聞会でオッペンハイマーが自身の過去を回想していくという演出はいいのだが、何度も行ったり来たりは少し疲れたというのが本音である。
この映画を理解するには(楽しむためには)オッペンハイマーとマンハッタン計画に関する一定の事前知識がないと難しい。知的で難解な映画だと思う。
■難しい② 扱うテーマが難しい
①の難しさに比べればこちらが遙かに難しい。難しさ故に、監督は「核兵器の是非、オッペンハイマーの行動の是非を評価しない」というスタンスを採った。そうしなければ、映画は公開できなかっただろう。その判断は、映画を観た者に委ねられた。
これは原爆の開発に関する映画だが、それに留まらない人間の欲望と探究心、科学と倫理というものを考えさせられる映画であったように思う。
ロスアラモスで研究者達が原爆開発計画をストップさせようとする集会を開いている場面にオッペンハイマーが入っていく場面があった。「ヒトラーは死に、日本も降伏目前なのに、なぜ原爆が必要か?」という一部の科学者たち。こういう人たちがいた、そして政府が決定する直前まで嘆願書に署名して実戦使用を止めようとしていた人々がいたことを知って、科学者の良心を感じると共に、それでも核開発に突き進む科学者達の存在を観て、人間とは何なのかをまた考えさせられてしまう。
もっと強力な兵器を!優秀な人間のクローンを!永遠の命を!賢い人工知能を!
人間の飽くなき欲望と探究心は、制御を失うと人間を破滅の淵に追い詰める。追い詰められてやっと気づいて慌ててルールを、管理をと叫び始める。核兵器もしかり。近年のAIしかり。その繰り返しである。
そして、本編とは直接関係ないように思われるストロースの公聴会を中心としたモノクロの場面。権謀術数を使って富の次に名声を得ようとする権力欲にまみれた男。オッペンハイマーとの対比で描くことで、オッペンハイマーの人物像をより際立たせようという演出だろうが、自分の欲望のために、原子力や核兵器さえも道具に使うこの男の描写は、現代の社会に対する皮肉のようにも思える。
オッペンハイマーを演じたキリアン・マーフィ、ストロースを演じたロバート・ダウニー・Jr.の演技は素晴らしく、オッペンハイマーの複雑な心情を描く粒子の飛び回る映像や爆発の映像、揺れや音の表現は秀逸だった。
しかし、やはり難しい映画である。
(2024年映画館鑑賞10作目)
共感を有り難うございます。
そうですね。人の欲望と探究心、科学と倫理について、観る者に委ねて考えさせる作品だったのでしょう。きっと表裏一体のそれらに、人は引きずられていくのです。
TSさん初めまして!こんばんは!
共感いただきありがとうございます。
登場人物も多いですし、TSさんのおっしゃる通りとても難しい映画でした。とても考えさせられます。
時系列など整理してもう一度観たいと思いました。