劇場公開日 2024年3月29日

「完璧。2024年5月1日再見(キャナルシティユナイッテッドシネマ)」オッペンハイマー mark108helloさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0完璧。2024年5月1日再見(キャナルシティユナイッテッドシネマ)

2024年4月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

難しい

🎦オッペンハイマー、完走。とんでもない作品を見た。これほどの映像言語をっちょっと知らない。膨大なフィルムから削り出した映像の彫刻。テオ・アンゲロプロスの🎦旅芸人の記録に比肩する圧巻の映像。もうこの上と言ったら小津の🎦東京物語とクブリックの🎦2001年宇宙の旅しかないレベル。是非この作品は若い方たちに見に行って貰いたい。中学生ならもう観に行っていいのではないか?こう言った高い次元の作品を若い内に浴びる事は最高の体験となる。ノーランの最高傑作と評しても過言ではない。様々な隠喩が散りばめられていて映像の宝石箱である。クブリックに肉薄している。あと一本で越えるのではないか・・・ワクワクが止まない。ピカソへのオマージュがこの作品の本質をよく表している。

【2回目鑑賞】
今回はディティールの検証での再見。ピカソの「泣く女」の少し前に出現する一連の絵画、特に1点のキュビズムスタイルの作品はおそらくフアン・グリス の作品に間違いない。この画面のインサートによって、この映画自体のテーマがピカソ芸術にかなりインスパイヤされているのが分かる。そもそも量子物理学や位相幾何学の発達からヒントを得て構築された概念であり、少なくともピカソと空爆を関連付けるゲルニカのイメージは表には出さず、表には出ずとも「泣く女」がゲルニカの中の重要な一コマとシンクロしているのは、ちょっとピカソ関連の伝記でも読んだことのある人なら理解できる点であろう。分子や原子、核などを自在に扱うための学問・量子物理学とそこから生まれた時空論、位相幾何学などはキュビズムを経てシュールリアリズム運動へと導かれる。この時代的文化運動と科学史的視点を重ね合わせ、本作品は私論ではあるが3部構成の体をなしているように思えるのである。それはまさにピカソの歩んできた美術史の変遷と重ね合わされるのである。

誰でもが知るドラ・マールを描いた傑作「泣く女」が映画の早い段階で挿入されて、その前にファン・グリスの作品が挿入され、さしずめ大学時代の恋人でその後も愛人関係にあったジーン・タットロックをこのドラ・マールに見立てている。そしてマリーテレーズが妻キティのイメージと重なる。3部作の構成はこうだ。分析的キュビズム、総合的キュビズム、そしてシュールレアリズムの時代というピカソの中心に「ゲルニカ」がある様におっぺんはいまーにはそれがHIROSHIMAでありNAGASAKIである。その後の赤狩りとの関わりや反水爆運動などがこのピカソにおけるシュールの時代に符丁する。

作品の表現様式も歴史的史実に「30年代までの天才物理学者の時代」「マンハッタン計画時代」「赤狩り・反水爆運動時代」がピカソの芸術様式に符丁し、実際の映像表現でも史実をパーツに解体し、再構築し、極めて短い挿入シーンのコラージュによって映像のキュビズムを目指しているかのような新表現を確立している。目まぐるしく展開する時空のワンカットワンシーンのコラージュは映画進行のドライブ感と4次元的幻惑感をもたらす。観客の神経はより研ぎ澄まされ前頭葉に働きかける映像の連続は、あのクブリックの🎦2001年宇宙の旅のエンディングシーンに匹敵すると言えよう。我々はこの作品において映像史の大きな節目に今立たされているのではないだろうか。

mark108hello