「エンタメとしてはキツいものの、歴史の教科書を映像化したものと考えればセーフかもしれない」オッペンハイマー Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
エンタメとしてはキツいものの、歴史の教科書を映像化したものと考えればセーフかもしれない
2024.3.29 字幕 イオンシネマ久御山
2023年のアメリカ映画(180分、R15+)
原作はカイ・バード&マーティン・J・シャーウィンの『American Prometheus: The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer(アメリカのプロメテウス:J・ロバート・オッペンハイマーの勝利と悲劇)』
原爆の父オッペンハイマーのマンハッタン計画とその後に行われた秘密保安聴聞会と上院承認公聴会を描いた伝記映画
監督&脚本はクリストファー・ノーラン
物語は、第二次世界大戦中のアメリカにて、ドイツの核開発に対抗する科学者たちの奮闘を描いていく
冒頭にて、1954年に行われた秘密保安聴聞会(カラー:主にオッペンハイマーの共産党員疑惑追及)と、1959年に行われた上院議員公聴会(モノクロ:主にオッペンハイマーをマンハッタン計画に推奨したルイス・ストローズの進退問題)が描かれ、それぞれのシーンから「回想」へとつながっていく
ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、共産党員との関わりを疑われ、それは恋人ジーン・タトロック(フローレンス・ピュー)が共産党員だったことと、それにまつわる告発が行われたからであった
ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・ジュニア)は、自身の昇進の意見交換会にて、「なぜ、オッペンハイマーを選んだのか」について追及され、「当時は有能な科学者だった」と、彼の背景に関して疑わなかったことを訴えていく
オッペンハイマーの回想は、ケンブリッジ大学時代から紡がれ、そこでは恩師パトリック・ブラケット(ジェームズ・ダーシー)の研究シーンと、大学で講義を行うニールス・ボーア(ケネス・ブラナー)とのやりとりから始まる
このパートでは「青酸カリとりんご」が登場し、彼の隠された破壊衝動というものが描かれる
ストローズの回想では、高等研究所に彼を招く様子が描かれ、そこでオッペンハイマーとアルベルト・アインシュタイン(トム・コンティ)の「秘密の会話」というものが描かれる
ストローズは二人の会話の内容が気になっていて、しかも数年前に行われたある会合でバカにされたことを根に持っていることが暴露されていく
この2本の物語の軸があり、「オッペンハイマーの回想は彼の研究生活」に言及し、「ストローズの回想はオッペンハイマーの共産党員との関係」を紐解いていく流れになっていた
科学者の人脈が広がるのがオッペンハイマーの回想で、プライベートの人脈の広がりがストローズのパートとなっていると考えればわかりやすい
その後、人脈が描かれた後に「マンハッタン計画への打診」というものが行われ、オッペンハイマーの元に陸軍大佐のグローヴス(マット・デイモン)とニコラス中佐(デイン・デハーン)が登場する
この時点のオッペンハイマーは、カリフォルニア大学バークレー校にて教鞭を執っていて、その時の生徒であるロマニッツ(ジョシュ・ザッカーマン)が後にグローヴスとの連絡係になっていた
また、隣の教室で実験を行っているアーネスト・ローレンス(ジョシュ・ハーネット)との交流が描かれ、友人のアルヴァレス(アレックス・ウルフ)や弟のフランク(ディラン・アーノルド)たちとの交流が描かれる
高原に馬で訪れる場所がのちの「ロスアラモス」で、そこに街が建設されていくのである
原爆開発に入ってからのメインイベントは「トリニティ」で、ここではシカゴ大学から合流したデヴィッド・ヒル(レミ・マレック)やエンリコ・フェルミ(ダニー・デファリ)たちとの研究が描かれていく
ここまででも登場人物の3分の1くらいで、マンハッタン計画に関わったアメリカ人科学者が15人くらい、軍部関連で10人以上、公聴会の議員が5名、聴聞会のメンバーが5人ぐらいは登場する
ぶっちゃけ、当時の人間関係と原爆投下後に何が起こったのかを知らないと意味不明な会話劇を眺めるだけになってしまう
人物の理解にパンフレットはさほど役に立たず、オッペンハイマーの年表とか、各用語の解説は使えると思う
登場人物相関図を個人的に作ったが、B4用紙まるまる細かい字で埋める感じで、全ての関係性を線で結ぶのは不可能に近い
印象として「ストローズの公聴会(議員から吊し上げ)」「オッペンハイマーの聴聞会(赤狩り関連)」「プライベートとしての共産党員との関わりと学外活動」「ケンブリッジから始まる科学者人脈の広がり」「マンハッタン計画で関わる科学者と軍人」という感じに区分けはできると思う
とにかく、180分間の講義を聞いている気分になるので、字幕を追うだけでかなりのカロリーを消費する
そして、脳が疲弊した時に「ドカン!」とくるので、なかなか強烈な映像体験だった
公開が伸びた経緯とかを掘り下げるとキリがないのだが、この映画は「原爆肯定」でもないし、「戦争賛美」でもない
アメリカの開発者目線における「原爆の投下」なので、被爆した広島や長崎の映像を当時の彼らが知ることはない
戦後にようやくそれらの情報が彼らの元に舞い込むのだが、その頃に聴聞会が行われ、その後に公聴会が行われたという流れを掴めばOKではないだろうか
いずれにせよ、人物が登場するたびに字幕で説明が必要な感じになっていて、鑑賞のハードルは思った以上に高い
180分の長さはそこまで感じないが、時系列が入れ替わりまくるので、全体像を把握するまでに時間がかかる印象があった
IMAXでの鑑賞も考えたが、かなりの混み具合で断念、会話劇なのであまり意味はないだろうとは思っていた
実際に観ればその違いはわかると思うので、時間が許すならIMAXレーザーで鑑賞したいと思っている