「コンプレックスが無いなら自ら転ぶのだ」青春ジャック 止められるか、俺たちを2 たあちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5コンプレックスが無いなら自ら転ぶのだ

2024年3月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

幸せ

6年前に白石和彌が撮った若松孝二プロダクション物語「止められるか、俺たちを」の続編である。前作のメイキングを見ると現場で白石監督が手にしている脚本の表紙には「青春ジャック(若松監督の「性賊 セックスジャック」へのオマージュか?)」と記されており、もともと一作目もこのタイトルであったことが分かる。前作の設定が1969年で若松プロが最も躍動していた時期の「映画作りの映画」であったのに対し今作は「反体制」の社会的熱病が冷めきり映画が斜陽へとまっしぐらの辛い時代(1982年)に若松孝二が名古屋に作ったミニシアター「シネマスコーレ」を取り巻く名古屋版ニュー・シネマ・パラダイス。とにもかくにも映画に人生をジャックされてしまった人々のお話で、冒頭は文芸地下で番組編成していて結婚を機に故郷の名古屋に戻った東出昌大扮する支配人の木全(きまた)さんが主人公かと思わせておいて途中からそろりフレームインしてくる井上青年(18歳の井上淳一監督自身!)が物語をジャックしてしまうという一粒で二度おいしい構造になっている。なんせ80年代初頭は名画座目当てに東京(実は埼玉)に出てきた私が最も邦画を観ていた時期と重なり「爆裂都市はがっかりだったけど水のないプールが良かった」とか「ピンクでも滝田洋二郎のような面白い映画がある」とか台詞の随所に映画愛があふれていて楽しい。シネコンでやっていないので久しぶりに柏のキネマ旬報シアターに出かけたのも良かった。通路を挟んで隣の同年代と思われるおやじが井浦新扮する若松孝二が「大林の三本立てなんかやるから(客が)入らないんだよ」と怒鳴るシーンで大笑いしており、それを見ている現状が映画のテーマとシンクロしていて学生時代に良く行った銀座の「並木座」を想起した(客席の真ん中に大きな柱がありスクリーンに没入できないのだ)。全体に奇をてらった盛り上げや葛藤が無く好感が持てるのだが何といっても木全支配人の奥さん(コムアイ)が凄く良くて幸せ!カレーに肉が入らなくても全く問題ないのだ。

たあちゃん