「映画を愛した人々の映画」青春ジャック 止められるか、俺たちを2 Tama walkerさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5映画を愛した人々の映画

2024年3月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

若松監督は、politically correct(ポリコレ)やハラスメント等の概念がなかった時代の「映画監督」のイメージそのもの。そのカリスマ性で周囲を自分の思う通りに引っ張っていく。自分の映画を上映するミニシアターという夢を押し通し、実際の経営は支配人に押しつけ、ピンク映画をやって金を稼げという。撮影現場ではスタッフを罵倒しまくりつつ圧倒的な監督ぶりを発揮。
いっぽう、弟子入りを直訴する若者に対するごくまっとうな対応からは、優しい心をもった常識人であることがわかるし、東北訛りの抜けない喋り方や「ザ・映画監督」を演じているかのような自己演出には何ともいえないおかしみ、人間的魅力がある。
ここまで魅力的に演じられたのは、『実録・連合赤軍』以降の若松監督の作品すべてに出演した井浦新ならではだろう。若松監督という人の本質を十分に体現し、井浦本人もこの役を目いっぱい楽しんだのではないか。

この映画の白眉は東出昌大演ずる木全支配人。この人の映画愛と、人としての強さは尋常ではない。王様の思いつきで始まったミニシアター、普通ならすぐに潰れただろう(というより開館しないだろう)が、なんと40年も経営し続けた(シアターは今も継続中)。自分の映画以外は客の入るピンク映画をやっておけという若松監督に対し、木全支配人は良い映画をかけたい一心で、驚異的粘り強さで交渉をすすめる。にこやかで腰の低い、見た目は地味なごく普通のオジサンだが、「これからこれから!」と常に前を向き、ぶれず焦らず、少しずつ、インディペンデント映画の上映を実現させてゆく。これだけ強い人はそういないだろう。
東出昌大は、「背が高い」という印象がまったく残らないほどに格好良さやカリスマ性を消し、目立たない(がとんでもない力を秘めた)オジサンになりきった。すごい役者。

芋生悠演ずる映画監督志望の大学生、金本法子はフィクションらしいが、1980年代の日本社会とそこでの女性の立場を知る人間にとっては胸が痛くなるキャラクター。この時代に自分のやりたい何かをやろうとした女性の直面した辛さ、自信のなさ、孤独感、苛立ち、嫉妬、無力感、そしていくらかの甘え、等を、男性脚本家がこれだけ的確に描きだしたこと(そして芋生が清新な演技で見せたこと)に本当に驚かされた。その脚本家とは、本作監督でもあり、本作にダメダメな「才能がない」青年時代の姿(杉田雷麟)が登場する、井上淳一である。才能はあったのだ。

Tama walker
Mさんのコメント
2024年4月28日

芋生さん。よかったです。

M