劇場公開日 2023年12月1日

ナポレオン : 映画評論・批評

2023年11月28日更新

2023年12月1日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

キューブリックが断念した因縁の題材をリドリー・スコットが映画化した歴史超大作

リドリー・スコットの集大成とも言える歴史大作。ナポレオンはホアキン・フェニックス、その妻ジョゼフィーヌをバネッサ・カービー。脚本は「ゲティ家の身代金」のデビッド・スカルパ。そのほか撮影ダリウス・ウォルスキー、美術アーサー・マックス、編集クレア・シンプソン、衣装ジャンティ・イェーツと、スコット組の常連スタッフが多く参加している。

18世紀末のフランス。ナポレオンは若くしてトゥーロン攻囲戦で指揮を執り鎮圧。これを皮切りに次々と戦果を上げてゆく。運命の出会いを果たしたジョゼフィーヌと激しい恋に落ち結婚。奔放な振る舞いに悩まされながらも、ナポレオンは政争にも打ち勝つ。連戦連勝の輝かしい戦歴の末に皇帝の座を手中にするが、妻との間に問題が発生し、夫婦の仲は愛憎半ばしていく。

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将校の父を持ち一時は軍人を目指したこともある監督、8本目の史実戦記となる本作では、フィルモグラフィー最多となる6つの大規模な戦場シーンを詰め込んだ。開巻の局地戦から、ワーテルローの戦いに至るまで、俯瞰からクローズアップ、砲戦から白兵戦まで、リアルなゴア描写も含め当時の戦争を可能な限り視覚的に再現している。

そもそもナポレオンの映像化は、あのスタンリー・キューブリックが断念した企画(結果「バリー・リンドン」に継承された)。詳細は割愛するが、創作上でも接点があり、好きな監督にキューブリックの名を真っ先に挙げるスコットだけに、ノートルダム戴冠式の絵画的表現、蝋燭の光を使った宮廷シークエンス、密集陣形による歩兵戦など「バリー・リンドン」と重なるイメージに気付かされる。そこに自身のデビュー作「デュエリスト 決闘者」でハーベイ・カイテル扮するナポレオン主義者が見せた狂気が織り重なる。

24歳から51歳までのナポレオンを演じたフェニックスは「グラディエーター」で感情をむき出しにした王子役とは違い、妻に心身を委ねても報われず、空虚な表情で兵を率いながらも、権力闘争に執念を燃やす二面性が印象的だ。対するジョゼフィーヌは情熱的で中毒性のある妖艶な女性になっている。当初のジョディ・カマーが降板しバネッサ・カービーに決まった際、一部から不満の声も出たらしいが、それを払拭する熱演を披露、歴史上最強のパワー・カップルに相応しい配役となった。

今回、仏国が誇る英雄の再構築に挑んだリドリー・スコットと彼のチームは、壮麗でリアルな戦闘シーンの熱さを、そのまま人間ドラマにも反映させ、劇的なその生涯を2時間38分に凝縮させて描きあげた。病死や暗殺など様々な説が唱えられるその最期を、監督がどう描くのか注目して欲しい。

本田敬

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