国葬の日のレビュー・感想・評価
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『カリスマ』より良いかな
安倍晋三氏の国葬に関する作品は、すでに佐井大紀監督が制作しており、監督が一貫した姿勢でインタビューし、題名の『カリスマ』とは対極的な「エキストラ」に焦点を据えたり、永山則夫氏の行動分析を試みたり、旧統一教会とは実態の異なるイエスの方舟を追跡したりで、ややはぐらかし気味だったのに対して、本作では序盤無音が続きながら、各地に散らばったインタビュアーは、次第にそれぞれの地点で対象者の発言を引き出し、さらには"REVOLUTION+"を制作して意図を語る足立正生監督と意見交換をし、そのなかでも述べられていたように、分断を引き受けるようなまとめ方にはなっていたのであろう。
自分からの距離
1年前、安倍元首相の国葬が行われた2022年9月27日に全国各地で撮影された人々の姿とコメントを連ねたドキュメンタリー。ナレーションはなく、インタビュアーの問いの収録も最小限。コメントから伺える回答者の傾向も国葬支持から反対、中道、無関心と幅広い。もちろん集まったコメントのうちどの回答者のどの部分を使い、どういう順で繋ぐか自体が製作者の意図の反映なわけだが、その点についてはできるだけ多様な意見をそのまま提示した上で、鑑賞者に考えてほしいのだろうと受け取った。
自分が強く感じたのは、国葬を肯定する多くのコメントが共有する、具体的な功罪に触れることなく「長く務めて頑張ってきたから(やってあげてもいい)」という空気である。鑑賞中はそれを「いや、そういうことでいいのか」とどちらかといえば否定的に受け止めていたのだが、あらためて考えると、(自分が過去にレビューしている)エリザベス女王や鮎川誠の映画を見て感じたのと同じ、独自の評価を下せるほど実績をよく知らないが、何となく親近感を感じた人の訃報に接しての感情かもしれないと気づいてハッとした。結局は自分との距離によるバイアスなのではないかと。
その上で、自分としては、国葬をやることの是非と、おくられる人の功罪は分けて考えるべきだと思う。前者は、国葬も叙勲も国民栄誉賞も、およそ国が行う顕彰は、時の政府の政治的意図があって行われるのであって、国民(民間人)に弔意/祝意の表明を強制しない限りは構わない。それとは別に、その人が何をしたのかは、在任中でも引退後でも亡くなった後でも、等しく検証され批評されるべきだろう。(これについての自分の意見はあるがここではおいておく)
なお、本編の間は製作者自身の意見は明示されないが(*)、エンドロールのSEで街の喧騒が次第に大きくなるジェット機の爆音にかき消されるという演出は、国の方向性あるいは国家の意思に対する製作者の矜持を表す署名のようなものと感じた。
(* インタビュアーの1人は、国葬日に公開された「Revolution+1」上映会で同作の監督に、「自分は国葬には反対だが、この映画をこの日に公開することは社会の分断を煽るのでは」の旨を問うている)
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