「人の定義」月 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
人の定義
目を背けてはいけない。それは分かっている。だけど、朝9時に見るもんじゃなかった。とにかくキツくて辛くてどうしようもない。犯人の気持ちも少しばかり分かってしまうからより一層。答えのない問いであるとは重々承知なんだけど、せっかく映画化したのなら、監督なりの考えくらいは提示して欲しかった。ただひたすらに事件の概要を説明するのは、とてもじゃないけど見てられない。
見ている最中はそれほど気にならないのだけど、思い返してみればこの映画は何を伝えたかったんだろう?と疑問が浮かぶ。犯人は極悪人であるということ?人々全員、偽善者だということ?全員正しくて、間違っているということ?最初から犯人を主人公に当てて物語が展開されていたら、どのような映画になっていたんだろう。客観的に、他人事のように見るからこそ、心が重くなり、深く考えさせられるんだろうけれど、主人公の気持ちにこれっぽっちも同情できず、かといって周りの人間にも感情移入出来ず、ただひたすらに居心地が悪かった。
結局、主人公は過去を繰り返している。
長い年月をかけて、何も成長していない。それどころか後退しているまである。夫だけが前を向いていて、自分はずっと過去を背負っている。たまに八つ当たりしたり、感情的になって逃げ出したり。人間味があると片付けることも出来るんだけど、あまりに身勝手で、しかもこのテーマを描くにあたって必要な人物だったとも到底思えない。それは他の人物も同じ。モチーフにしているとは言えど、観客が頭に浮かべるのはやはりあの事件。表面だけを伝えるメディアと何が違うのか。
ジリジリと迫り来る音楽、そして絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような汚い黒。映像作品としては文句無しに素晴らしい。140分を超える長尺だが、見事に魅せられた。役者の演技も怖い。魂を抜かれたような二階堂ふみの表情に、気分を悪くしてしまった。最高の役者だ。とても「翔んで埼玉」と同じ人とは思えない。だが、史実を元にした作品としてみた時、この期に及んで本作を制作した理由が見当たらない。そう易々と語れるようなものでないことは十分理解しているが、せっかくなら石井裕也らしく、ズバッと決めて欲しかった。ん〜...。また洗練して、映画化してくれないかな。