「様々な意見はあると思いますが個人的には石井裕也監督の決意と覚悟を尊重したいと思います。」月 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
様々な意見はあると思いますが個人的には石井裕也監督の決意と覚悟を尊重したいと思います。
話題の作品をやっと鑑賞しました。
なかなかタイミングが合わなかったんですが、出張先の札幌の「シアターキノ」にて鑑賞。サービスデーで1200円だからでしょうか、場内はほぼ満席。
で、感想はと言うと…重い。でも見応えはずっしりとあります。
正直、この作品のレビューを書くのにあたり、注意は払ったつもりではあります。「じゃあ、書かなければいいじゃん」と言う御意見もあるかと思いますが、鑑賞したら書きたくなると言うか、書きたくなるだけの想いを募らせる何かがこの作品の中身の濃さかと思います。
表現での言葉使いには出来るだけ気をつけて書いてますがもしお気に障る表現があればご免なさい。稚拙な文章でのレビューと御了承頂ければと思います。
実際に起こった「津久井やまゆり園事件」をベースに描かれた今作は事件での詳細を綿密に描いていて、細かな点でも符合する事が多く、これが実際に起こったのか?と思うと改めて驚愕してしまう。
だけど、実際に起こっていることに目を背けている人が多い中(自分も含めて)、現場で対応している人達にはフィクションの延長でもなく、現実の中で起こり選ることに常に背中合わせと考えるとさとくんが言った「ここは社会の縮図」は言い得て妙。
見てるようで見ていない。知っているようで知ろうとしていない。社会の暗部の縮図がこの作品には詰まっており、匂いが伝わってくる作品かと思います。
特に立ち入り禁止とされる長年入所していた方の部屋での描写やクライマックスのさとくんの行動は正直目を背けたくなるようなショッキングな描写。
個人的にはさとくんのクライマックス描写は凶器を手にした時点で止めておいても良かったのでは?と思ったりしますが、社会人としての良識と社会的考慮。そして映画人としての作品の在り方に悩み、決断した石井裕也監督はそれ相当の覚悟をされたと思います。
だからこそ、それ以上に踏み込んだ石井裕也監督の決断は個人的には鑑賞者として尊重したいと思います。
立ち入り禁止部屋の様子は重度障がい者施設が全てそうでないと思うし、そう信じたいと思うが綺麗ごとでは済まされないと思うし、憶測にはなりますが大小なりにもあるのかも知れない。
直接関わってない者が正論を立てたところでそれは綺麗事であると思うし、かと言って何もやらないなら口を出すな!と言うのもなんか違う気がする。
本当はさとくんが怒りを向ける所は障がい者施設のスタッフの行動やそれを管理する責任者や責任施設。詰まるところには国になるのかも知れないがそこは見て見ぬふり、聞かないふりで「臭いものには蓋をする」が蔓延した体制の結果かと思う。
この辺りは公開中の「福田村事件」とも似ている。
でも、雇用条件の低さやそれを良しと考えなければ、やっていけない状況にさとくんはある意味洗脳され、そういった曲解の解釈に至ってしまったと言うのが悲しい。
ここでは実際の事件はどうであったと言う点は敢えて考慮せずに作品から観た感想で述べさせて頂きますので御了承頂ければと思います。
様々な実力派の俳優が重厚なテーマの中で伝えるべきテーマでの表現の比喩や誤解を恐れずに演じているのはやっぱり流石。
特にオダギリジョーさん演じる昌平は最初オダギリジョーさんとは気が付かなかった。オダギリジョーさんと言えばクールかつスマートな演技のイメージですが、昌平のような何処か頼りない夢追い人はちょっと想定外。
でも洋子と子供のことや生活のこと。様々な事で夫として父親のしての責任が現れていく様はやっぱりお見事かと。それにしてもバイト先の同僚(先輩)はめちゃくちゃムカつく! 自分は同居者様と思っていないのに、新人にそれを過剰に押し付けるのには腹が立ちますが良いアクセントですw
ただ、話に様々な要素を取り込んでいるので些かブレが無い訳でもない。
・元、小説家の洋子が障がい者施設に勤める。
・夫の昌平がクレイアニメ作家
・同僚で作家志望の陽子の家族の背景
特に二階堂ふみさん演じる陽子の件は物語に含みを持たす為の演出かと思いますが、クリスチャンの家系で厳格な父親が浮気をしていたと言う伏線は特に回収もされないし、前半で怪しかった陽子は事件に加害者的には関わっていない。(間接的には関わっている感はありますが)
そうするとちょっと横道に逸れる感があるのと、中盤で酒を飲んで洋子に暴言を吐くのはかなり胸糞。酔っ払ったからと言って何を言っても良いと言うのは酒飲みからするとちょっと腹ただしいw
洋子が小説を書けなくなる件は良いとしても、オダギリジョーさん演じる昌平が売れないクレイアニメ作家としての件に洋子の件はちょっと詰め込み過ぎかなと。
3つの伏線的な件があることで磯村勇斗さん演じるさとくんのバックボーン描写が少なく、どうしてこうなった?が薄くなっているんですよね。
ちょっと伏線要素が詰め込み過ぎには感じますが、そうしないと重すぎるテーマに終始圧迫されるのかな?と考えたりしますが、如何でしょうか?
さとくんが壊れていく(敢えてそう表現しますが、そうでもないと正直理解出来ない行動と御理解下さい)ところから物語が急に進んでいき、不謹慎ながらにも目が離せなくなってきますが、いろんな事件をテーマにした作品はそのバックボーンはどれも闇深く、悲しい。
不平等で矛盾が蔓延している世の中を描いた作品だからこそ、ラストの昌平の受賞や洋子が小説を改めて書けたこと。回転寿司のシーンはちょっとほっこりするし、なんか嬉しい。
重いテーマで観る人にとってはあの事件と重ね合わせることが多分にある為、その認識に差異があることで異議を唱える方もいると思いますが、自分は観てよかったと考えますがそれは石井裕也監督の作品で実力派の俳優陣が出演している映画としての魅力であり、あくまでも個人的な感想と考慮して頂ければ幸いです。
追記:今更ながらなんですが、石井裕也監督が「愛にイナズマ」も担当されているのにやっと気がつきましたw
正直、作品の在り方やジャンルが違い過ぎて、気がつかなかったと言うか、正直「…うそ?」「同姓同名?」と今でも半信半疑ですw
撮影した時期は多分違うと思いますが、公開されたのがほぼ同時期なのでちょっとどころかかなりビックリ。
改めてですが、石井裕也監督の振り幅の広さに感服します。
humさん
遅くなりましたが、コメント有難うございます。
追記も見させて頂きました♪
愛にイナズマと真逆の作品でどちらも感性に訴えかけるベクトルが違いますが石井裕也監督の振り幅の広さに驚嘆します。大切なもの。仰る通りです。
また、お暇がありましたら、覗きに来てくださいね♪
共感いただいた後、追記を加えていますので、よかったらご覧ください。
おっしゃる通り、匂いの伝わる作品でした。「愛にイナズマ」とはまるで違う作風ですよね〜。どちらも大切なものは詰まっていましたが^ ^