「月の元に晒す」月 momoさんの映画レビュー(感想・評価)
月の元に晒す
太陽の元に晒すべき事件、隠蔽してもならないし、忘れてしまってもだめだ。
だけど、ドキュメンタリーではないから、リアルでなくていい。あくまでもフィクションとして月の元に晒した感じ。
映像は終始暗い。
満月でもなく三日月の明度の陰鬱とした映像が続く。
殺人というのはだれを殺したとてどんな理由があったとて今の世の中の場合は罪に問われる。
だが、時代が変われば違う。戦時は殺したことが勲章にもなった。
戦国時代は、大河ドラマなんかでも堂々と首を取ったことが誉となっているし、みんな見てるでしょ?
つまり、歴史の教科書に乗るくらい歳月が流れていない、数年前の事件は取り扱い注意は当たり前!
そこに切り込むことは大変危険で怖いことだが、風化させてはならない問題を提起をすることに強い意義は感じる。誰もが忘れるほどに遅くてはダメだ。
宅間孝行が普段はタクフェスでいい芝居を作っているが、今年はタクラボ名義で「神様お願い!」という舞台で安倍総理襲撃事件を描いた。パーフェクトな出来で衝撃を受けたし知らぬ間に泣いていた。あまりの素晴らしさに2回観た。
直近の事件を扱うのはとても勇気のいること。
この映画はタクラボのレベルには達してはいないけど勇気は買う。
宮沢りえ、オダギリジョーが演じる夫婦が毒消しになっている。
だってさ、〈犯人が障がい者を殺しました。〉だけじゃ映画にはならないからしょうじきじいさんと正直ばあさんが必要なのだ。
回転寿司で普通は大人は玉子のお寿司なんて取らないよ。そこが被った2人の手の触れた瞬間!素敵じゃないか。2人とも小説やストップモーションアニメの夢追い人、子供のような心を持つピュアな人物だから玉子に手が伸びるのだ。
オダギリジョーの夫がほんとに優しく妻を師匠と呼ぶほど尊敬していて、妻を包み込んでいる。
二階堂ふみがまたいい味出している。嘘つきな嫌な女が素晴らしい。
事件の真相は?真実は?それを微妙に誤魔化してしまう嘘の象徴。彼女は浮気をしてる父や浮気を知ってて知らない顔してる母と、家庭も全て嘘だ。
そして一番拍手を送りたいのは磯村勇斗。まあ、難しい役をよく頑張りました。花丸!
花咲かじいさんの紙芝居を作って利用者に読んであげる優しい顔、刺青に大麻に大量殺人の裏の顔。聞こえない彼女に愛してることも告げつつこれから殺しに行くことを告げるシーンには射抜かれた。
正直じいさんだったのに意地悪じいさんになってしまった悲しい人物だ。
施設内の糞尿にまみれ裸のモザイクのかかった男の姿は衝撃的だ。見てしまったが最後、たがも外れる。
ここ掘れワンワンで糞尿を掘らされたことに怒り意地悪じいさんはポチを殺してしまう。
そこだ!磯村勇斗はそこで意地悪じいさんに豹変の演技を見せたのだ。
昔話の中では、正直じいさんはポチを葬った灰で枯れ木に花を咲かせる。
この映画で咲いた花は久しぶりに完成した小説とフランスで受賞したストップモーションアニメだ。
また、お腹の赤ちゃんを堕胎せず物語は終了する。どうしたかは想像に委ねられる。
もう一度回転寿司に行けた2人だもの。きっと1年後2人の間には可愛いベビーがいるはずだ。
施設には監視カメラが着いたのだから、もう月ではなく太陽の元に晒そう。