6月0日 アイヒマンが処刑された日 : 特集
【衝撃作】Wikipediaには載らない“歴史の裏側”を目撃
ユダヤ人を“600万人殺害”したナチス戦犯アイヒマン
処刑後、実は絶対タブーな方法で葬られていた…
誰が、どうやって? 極秘プロジェクトを描く“実話”
毎年数本は必ず公開される、ナチスを題材にした映画。
人類が知るべき重要な出来事を描くナチス映画に、今までとは異なる“斬新”な目線で挑んだ「6月0日 アイヒマンが処刑された日」が、9月8日から公開されます。描かれるのは、ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)の計画・指揮における中心人物だった、アドルフ・アイヒマンの最期にまつわるひとつの“真実”。彼の遺体処理の裏側には、あのWikipediaにも載らないエピソードがありました。
初めて試写で鑑賞したとき、大きな衝撃を受けました。こんなナチス映画は今まで観たことがなかった……。この項目では、本作がこれまでの作品とはどう違うのか、その斬新さを詳しくご紹介。知ればもっと興味深くなる魅力、隅から隅までお伝えいたします。
【本当の裏側】今までのナチスものと一線を画す斬新さ
Wikipediaも掲載しない、意外すぎる歴史の裏側を描出
本作のどこが斬新なのか? 4つのポイントで紹介していきましょう。
【斬新①】テーマは“死体をどう処理する”? その禁忌の方法とは…
イスラエルへと極秘連行されたアイヒマンは、1961年12月に死刑判決を受け、翌年5月31日から6月1日の真夜中(=イスラエル国家が死刑を行使する唯一の時間)の“6月0日”に絞首刑にされます。遺体は火葬され、遺灰はイスラエル海域外に撒かれました。
ここまでは、よく知られた話。実は、人口の9割をユダヤ教徒とイスラム教徒が占めるイスラエルでは律法により火葬が禁止されており、火葬設備が存在しなかったのです。では、一体誰がどうやってアイヒマンの遺体を火葬したのでしょうか?
焼却炉を製作すればいい――。ユダヤ人を強制収容所へ送り続け、“600万人の虐殺”に関わった人物を火葬するこのプロジェクトに巻き込まれてしまったのは、居場所のないリビア系移民の少年、アイヒマンを監視する護衛、ホロコーストの生存者で裁判ではアイヒマンを尋問した捜査官と、イスラエルの片隅に生きる人々……。
彼らの存在はWikipediaにも載っていない、いわば“歴史の裏側”の住人。数奇な巡り合わせが興味深く、一気に物語に引き込まれていきます。
【斬新②】焼却炉をいかに作るのか? 普通の人々が挑んだ超極秘プロジェクト
本作は、リビアからイスラエルに移民してきた少年・ダヴィッドの目線から始まります。父に連れられて町はずれにある鉄工所に行ったダヴィッドは、やがてそこで働く人々からかわいがられる存在に。そしてある日、この鉄工所にアイヒマンを火葬するための小型焼却炉を製作するという極秘プロジェクトが持ち込まれます。
あのアイヒマンを、火葬が禁止されているこの国で火葬する……工員たちに大きな動揺が広がるなか、ダヴィッドも製作に関わっていくことに。アイヒマンを収監する刑務所内の様子も描かれ、犠牲者の報復などを警戒する警察官たちの姿なども通して、さまざまな人々が“その日”に向けて粛々と日々を送る様子を映し出します。
普通の人々が突如として大渦のような極秘プロジェクトに巻き込まれる、想像以上に緊張感がほとばしるヒューマンドラマ。これが本作の大きな見どころとなっています。
【斬新③】アイヒマンを“真正面”から描かない
刑務所内のシーンでは当然アイヒマンも登場しますが、この描かれ方もまた斬新でした。真正面からアイヒマンの顔はとらえず、映るのは主に足元や後ろ姿。本人の表情は見えませんが、彼の周囲にいる人々の緊張感がすさまじく、死刑を控えているのに余裕そうな後ろ姿がかなり不気味。確実にそこに“いる”のに真正面から描かないことで、より強烈な存在感を印象付けています。
【斬新④】今まで見えていなかった“歴史”が見えてくる
さまざまな斬新ポイントを紹介してきましたが、何より一番伝えたいのが、本作をきっかけに“歴史の裏側”が見えてくるということ。この焼却炉製作のエピソードは、驚くべきことにジェイク・パルトロウ監督が実際にイスラエルで取材をして当事者から聞いた話を基に作られています(記事後半で詳述)。
しかし、これだけ重要な“実話”にもかかわらず、アイヒマンの遺体の焼却に関わった人々はWikipediaにも載っていません。この映画を観たとき、「こんなことがあったんだ」という驚きと、“ひとつの真実”を知ることができた喜びも感じられるでしょう。
この感情の詳細についても、次の項目で詳述していきます。
【実際に観た】“歴史”を描いた監督の熱意に敬意を
今、絶対に映画館で目撃しなければいけない一作
ここからは、本作を鑑賞した編集部員のレビューを綴っていきます。上記の見どころで書ききれなかった特徴や魅力をお伝えしていきますが、結論から言えば、本作は絶対に観るべき、いや、絶対に“目撃”しなければならない一作でした。
●飽きる瞬間ゼロ テンポよく進むストーリーと、重厚なドラマにどんどんハマっていく
題材を聞いてまず、興味深い物語に好奇心が刺激されましたが、同時に「難解な話なのかもしれない」という心配もありました。しかし、それは全くの杞憂で終わることに。鉄工所で働く人々、アイヒマンに関わる人々の感情の動きが丁寧に描かれ、重厚なドラマに仕上がっているのに、テンポ良く進むのでとても観やすいのです。
アイヒマンが“火葬される”という結末は歴史的事実なので既知なわけですが、どうやってプロジェクトが進められていくのか展開が気になり、刑務所のシーンでは観ているこっちまでドキドキするほどの張り詰めた空気がいいアクセントに。飽きる瞬間が一切ないほど、どんどんハマっていきました。
●真正面から“歴史”を描いた、パルトロウ監督の本気度 必見の渾身作を劇場でそんな本作のメガホンをとったのは、ジェイク・パルトロウ監督。「恋におちたシェイクスピア」「アイアンマン」シリーズなどで知られるグウィネス・パルトロウの弟でありこれまで「デ・パルマ」「マッド・ガンズ」などで監督を務めてきました。
幼少期から父親と共にBBCのドキュメンタリーを見て育ち、本作の題材に関心を持ったというパルトロウ監督は、実際にイスラエルに行って当時を知る人々に取材を敢行します。少年時代に鉄工所で働いていたというダヴィッドのモデルになった人物と出会ったほか、刑務所でアイヒマンの警護をしていた人に聞いたという“美容師とアイヒマンのエピソード”(緊張感MAXで印象深いシーン)なども盛り込まれ、市井の人々の目を通して、今まで埋もれていた“歴史の裏側”を描くという大きな挑戦をしているのです。
個人的には、余韻を残すラストシーンもかなり良い……。ぜひ、あなたも映画館で本作を鑑賞し、この知られざる歴史を目撃してください。