「市井の人々の目で歴史的出来事を描く」6月0日 アイヒマンが処刑された日 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
市井の人々の目で歴史的出来事を描く
ナチスドイツの最重要戦犯アイヒマンは、近年だと「アイヒマンを追え」や「ハンナ・アーレント」などの映画でも描かれてきたが、彼そのものを描くのではなく、あくまでアイヒマンと対峙した主人公が何を感じたのかというアプローチになるケースが多かった。その意味では本作も変わらず。処刑に関わった人たちの人間模様や心の移ろいに焦点を当てた作品となっている。ただし、前2作に比べると、より”名もなき市井の人々”に焦点が当てられているわけだが。とりわけ監督自身が興味を抱いてリサーチしたという焼却炉にまつわる逸話は興味深く、少年と工場経営者との、疑似父子のようでありながら、決定的にそれとは違う関係性は本作の肝といえる。クライマックスでこの経営者の心にはどんな感情が迸ったのか。決して全ての答えが欲しいとは言わないが、もう少しだけ作り手の思いが率直に伝わる部分があると、観客(特に日本の)にとってわかりやすいのだけれど。
コメントする