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シンガポールに縁があり、同国映画の上陸は珍しいので観賞。邦題の「グアイウ」は華語で「怪物」の意のようだ。
映画はほぼ全編が地下軌道と車両、運行会社、特に指令所(のセット)内で進行し、シンガポールらしい風景は主人公が下校後の子を実家に迎えにいくシーンで庶民っぽい住居が映るぐらい。(本国公開も今年のようだが、制作がコロナ下であればやむを得ないか)
怪物のインサートには目を見張った。もはや映画大国でなくても、創造物と生の人間を全く違和感なく共存させられるのだなと感心した。(本作記事の画像に写っているのは模型っぽくみえるが、たぶん全編CGだろう)ただ動きの繊細さや登場人物との絡みはそれなりで、まあ予算次第なのかなと思う。
一番印象に残ったのは、モンスター映画なのに作品を静謐さが貫いているところ。セットはきれいで猥雑さがなく、登場人物は沈黙しているシーンが多く、台詞の間は長い。劇伴もあったかどうか記憶がない。独特で不思議な雰囲気だった。
ただそれが静と動のコントラストでショックや恐怖を生んでいるかというとそうでもない。それは怪物の見せ方の問題かもしれない。見えないものの恐怖とか、チラ見せでの煽りとかがもう少しほしかったと思う。また、主人公のトラウマが何度も描かれるが、それが怪物との関係性にどう関わるかはクライマックス(偉大なSF映画へのオマージュか)までお預けで、もっとサスペンスに貢献する展開にできた気がする。
怪物がらみの謎は多いが、全く説明されない。それはそれで潔いかも。
原題の「Circle Line」は舞台となる環状線。華語題は「生死環線」で乗客の運命を暗示しているか。母と子とか、主人公の息子と怪物の関係とか、輪廻的な意味でもあるかとタイトルバックで邪推したが、よく分からなかった。
なお、前半の運行会社のパートは突っ込みどころが多い。
物語の導入。無人自動運転の路線で終電が暴走し、指令所のモニターから消える。保線員が目視で捜索しても見つからない。指令所では老朽化した運行システムの障害で、昔工事途中で放棄された線区に誤進入したのではと推測するが、上司は経営に影響が出るので確証がないと救助隊は出せないという。
どうみても鉄道会社失格と思えるが、システムを改修できないのもスタッフが足りないのも救助に即応しないのも、コストカットで金がないからということが示唆されている。
実はハイテク社会と思われているシンガポールだが、まさにインフラの老朽化と民営化推進による経費削減が要因の事故やトラブルが増えているとされる。こうした背景をモチーフに社会風刺を加えているのかもしれない。
列車が軌道終端に突っ込んで停まった後、「落ち着いて。救助が来ます」と自動音声が流れ続ける(が救助は向かわない)ところが一番のホラーか(苦笑)
それはともかく、モンスター物なのは確かだが、ホラーなのかパニックかスリラーかアクションか、はたまたヒューマンドラマか、どれにも中途半端だった気がする。とはいえ市場規模の小さいシンガポールでこういうジャンルが作られていることは興味深い。