「この悪地(badland)から走り抜け出ろ」BAD LANDS バッド・ランズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
この悪地(badland)から走り抜け出ろ
原田眞人監督の作品に何を求めるか。
王道的エンタメを期待したら、金をスラれた気分になるかもしれない。
近年の『関ヶ原』『検察側の罪人』『燃えよ剣』『ヘルドッグス』など一見エンタメ作ではあるが、なかなかに万人受けしづらい。題材ではなく、その作りがだ。
原田作品を楽しむには、このセンスに酔いしれるしかない。
もはやトレードマークとなった作風や演出は本作でも健在。
スタイリッシュでクール。早口の膨大台詞量。展開も早い。ムーディーな音楽。入り乱れる人間模様。
アメリカで映画を学び、日本映画離れしたセンスや作風は、原田監督にしか出せない世界観。
その一方…
アメリカンナイズされ、台詞回しや用語にインテリアチックをひけらかす。分かる人には分かる。ハマる人にはハマる。合う人には合う。
そうでなければ完全シャットアウト。
センスと言ったが、自分に酔いしれているような気取った作風は鼻にも付く。
別に原田監督とその作品が嫌いなわけじゃない。好きな作品は多い。
ただ時々合わない時がある。
本作はそれであった。
大阪。特殊詐欺を生業とする女、ネリ。
グループの名簿屋の下、“売り子”として手腕を振るっていた。
ある日血の繋がらない弟ジョーが現れた事から…。
ある博打で負け、借金を作ってしまったジョー。
返金の為、名簿屋の金庫を狙う。その時、歯車が狂い出す。
大阪府警の摘発班が執拗に追う。
特殊詐欺のグループのみならず、そのバックの組織や巨悪の思惑絡み…。
思いがけず手に入れた3億円という大金。ネリとジョーは負ければ死、勝てば人生一発大逆転のチャンスをものに出来るか…?
これが万人受けのエンターテイメントなら、コン・ゲーム展開の騙し騙され、裏切り裏切られ、二転三転の醍醐味や面白さあっただろう。
本作も無くはない。一癖二癖ある人間模様。誰もがキケンな奴ら。
誰が敵か味方か。一瞬の隙を見せたら突かれる。
常に命の危機と隣り合わせ。
ヒリヒリとしたサスペンスは充分だが、どうも世界観に入り込みにくい。
状況や背景の説明ほとんどナシ。ぽんとその場に放り投げられたような。
人間関係図も複雑。時々人物名や派閥がこんがらがる。
話も複雑のようだが、整理するとそう複雑ではない。台詞量や小難しい用語で難しそうに感じ、また伝わりにくい/入り込みにくい作風や演出がそれに拍車をかける。
それでも見ていく内に面白味は増していったが、しかしそれが決定に至るまではいかなかった。
闇の稼業の怖さは伝わった。
開幕の“仕事”。
ある老女に詐欺電話。
マークし、至る所に配備し、裏でグループが指揮を執る。
老女の周りに群がるは特殊詐欺グループだけではなかった。大阪府警の摘発班。
老女は摘発の為の囮。まあこの老女も安易に騙され過ぎと思ったら…。
結局この攻防は…。
人がごった返す街中で、犯罪グループvs警察が当たり前のように。
本当にこんな事が行われているのか…?
今もすぐ目の前で、すぐ隣で…。
世界一安全とよく言われる日本だが、実際は…。
姉弟がそれぞれ抱えるもの。
サバサバして度胸もあり、男前なネリ。
怖いものなど無いように見えて、深い闇や過去を抱えている。
まだ十代の頃、義父から性的虐待。実母は自殺。住んでいた工場は焼け…。
ある男の下で働く。メディアでも話題の大企業の会長にして投資家。部下として働き、欲望を満たす道具としても…。この時受けた暴力が原因で…。
逃げ、助けを求めたのは…。表向きはNPO法人の理事長だが裏の顔は特殊詐欺グループの名簿屋。実父であったのだ。
感動的な父娘の再会などではない。上役と部下。非情な世界。
もうこの世界で、この男の下で、この仕事で生きていくしかなかった。
そんな時思わぬ“事件”。返金でジョーが名簿屋の金庫を狙い、争いになり、ネリが助けたのはジョーの方だった。
この手で実父を刺し殺し…。
ネリもいい加減この仕事や実父にうんざりしていたのは否めない。
これはチャンスか。それとも…。ジョーは疫病神か。
トラブルメーカーで自由気ままな性格、悪びれる様子もない。サイコパスな一面も。
しかし、この二人にしか分からない“姉弟”の絆がある。
10代の頃に出会い、苦楽を共にしてきた。
血の繋がりはないが、血の繋がりある実父よりその関係は濃い。
ネリが思っている以上に、ジョーは姉思い。ラストのある行動…。
無謀で結果的に悲劇となったが、ジョーにとってはこれで良かったのかもしれない。
自由に行けよ!…とでも。
大阪の雰囲気がムードを上げている。
所謂有名所ではなく、シャッター街や裏賭博場、アジトにしている一見廃屋…。
お天道様の下はまともに歩けず、誰の目にも付かぬ日陰のような場所。
そこで生き、蠢き、一触即発。
クライム、ノワールの世界に充分浸れる。
キャストの熱演も素晴らしい。
安藤サクラに関しては…、もう何も言うまい。ただ単に巧い!名演!を通り越して、発する台詞や存在感やカッコ良さ全てを含め、完璧に役を自分のものにしている。原作では安藤の役は男と言うから驚き。全くその違和感を感じさせない。
山田涼介も安藤サクラに触発されるように。ふてぶてしさ、危険さ、人懐こしさ。彼も作品や役によって化ける実はなかなかの演技巧者。
その他の個性派や異色で揃えたキャスティング。ネリと因縁あるイケメン投資家や賭博場の女仕切り屋などインパクト充分。
ベテラン性も負けてはいない。
前半はイッちゃってるが、後半からはシラフになって渋いカッコ良さを魅せる宇崎竜童。
いつもならコミカルな役柄多いが、それを一切封印し、恐ろしさと凄みを効かす生瀬勝久。
キャストの熱演はいずれも見応えあった。
悪くはなかった点もあるが、しかし…。
心底満足した、面白かったとは言い難い。どうも不完全燃焼感が燻る。
他のレビュアーさんの評価はなかなか高く、堪能したようで。
あくまで私個人の意見。ラストシーンの疾走のような、もっと突き抜けた面白さや分かり易さ、エンタメ性が欲しかった。正直に。
近大さん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
『 本当にこんな事が行われているのか … ? 』、リアルでしたよね。
ネリとジョーとの育って来た様子、胡屋とネリとの関係性、他絡み合う人物との関係性にリアリティーを感じにくかったのも一因かも知れません。
あくまでも私にとって、ですが。
キャストの皆さんの演技は見応えがありました。