「消化不良かなあ、やっぱり。」はじまりの日 八べえさんの映画レビュー(感想・評価)
消化不良かなあ、やっぱり。
名古屋を舞台にした映画。
正直なところちょっと消化不良かな。
ストーリー自体の面白さで引っ張っていく映画ではない。
脚本のユニークさが面白いわけではない。社会派的な映画でもない。
その中にあって表現として中途半端なところはあったようにどうしても感じた。
J-Walkの中村さんが70代にしてこれだけ歌えている姿は確かに感動した。
中途半端と感じる一番はやはり「ミュージカル」の扱い方だ。
表現手法としてミュージカルが使われていたけれど、なんというのか中途半端な感じがどうしてもした。振り切れていない。
主人公たちが歌うのはこの映画のためのオリジナル曲だったと思う。
主人公たちのその時の思いがのった曲だ。いわばセリフの代わりの曲。
ところが、その曲がオーディションの曲になったり、ライブで歌う持ち歌として使われていく。
もちろんミュージカルでも、ある曲がモチーフとして何度も歌われることはないわけではないが、この映画では、その辺りがなんとも消化不良になる。違和感を引きずってしまう。
一方、母親との葛藤のシーンなど、映画のキモとして感情が高まるようなところは、通常のドラマのまま。こういったところこそ、ミュージカルなら歌に、音楽にすべきところなのに、そこはしない。ミュージカルに振り切れていない、そう感じるのは、こういったところ。
また、中村さんが歌を取り戻す友人の葬儀。あの魂を搾り出すような歌声は感動するのだが、あのシーンを作り出すための伏線として、友人の死が扱われている感じは拭えなかった。家族としての絆の切れていた息子が現れて「歌ってくれよ」と突然叫ぶ。それで歌うことを取り戻す。やはり唐突な感じがたし、中村さんが歌うために、グッさんが殺された、というような御都合主義な印象があった。そうとしか思えなかった。
ほぼ同じ時期にみた「JOKER 2」。こちらも音楽、歌が印象的に使われた作品だ。そのことについて賛否はあるようだけれど、JOKER 2はミュージカルであることを表に出した作品だ。ブレがない。そしてそれが美しかった。
違う作品なのだから比べてしまうのはおかしいのだが、この「はじまりの日」はそこがはっきりしない映画だった。振り切ってしまえば良かったのにと思う。
また、中村さんの生活がどうしても「Perfect Days」に重なってしまうところはあった。古いアパート、銭湯、そして掃除の仕事。Perfect Daysの役所さんはあの生活を選び取っているという爽やかさ、木漏れ日のような美しさがあったけれど、中村さんは選び取ったという感じはしなかったかな。言葉を思い出せないがヒロインがこのアパートを含めた自分の境遇を自己卑下する言葉もあった。その違いは画面からも伝わってきたような感じはあった。
もう少し何かできたのではと思う映画だった。