「反逆の横顔」哀れなるものたち humさんの映画レビュー(感想・評価)
反逆の横顔
冒頭、真っ直ぐな背中を追うように青い海から辿り着いたモノクロ世界。
ベラの成長とともにカラフルになる拘りの演出は、非現実的な雰囲気で覗きこんでいるうちに日常に帰れなくなりそうに怪しい。
ベラの奔放さはこどものわがままで終わらず、大人になる頃には何度もチャレンジする〝熱烈ジャンプ〟のとりこに。
ネーミングのあまりの明るさに笑いをこらえつつ、あくまでもあっけらかんとしたベラに何故か救われたり、憐れみに近い感情も起こしながらじわりと沁みるのは、成長過程にありがちな無知なバランス力、仕方のない滑稽さ。
大人が顔を赤らめ思いだすいつぞやの力み、本気加減。
ベラのアドレナリン大放出もピークな頃には〝搾取〟〝放漫〟〝虚しさ〟〝蔑み〟などのワードが私の頭をよぎる。
極彩色で表現されるむき出しの哀れなるモノたちの中心でベラは哀しみに触れ苦しみだす。
油性絵の具でべったべたに塗られ窒素しそうなハートでベラが旅先から届ける〝そのまますぎる〟絵葉書がちょっと面白いのだが、内容は深刻。
育ての父や婚約者の心配に拍車をかけ萎えさせ、いかにも辛そうだ。
反抗するベラはきっと邪魔者になり海に放られてしまうかも?どうする??と思いきや…目を見張る展開が来るのだ。
たゆまぬ好奇心と探究心、行動力で得た出会いと経験を栄養にして蓄えた知見が覚醒。
ベラに湧く疑問はストレートに飛び出し跳ね返るものから学び吸収する。
そうして鍛えられた判断力が迷いなき「今」からの脱出を発動。
おそらく観客の誰もが無防備すぎると思った冒険旅行。
目に見えて彼女の精神を急成長させていく過程には痛快さえ得るのだが、更にあるものを目撃する。
確かに美しいベラだが、その見かけだけの魅力ではないものが備わるにつれ周りに蔓延る者たち(異性や年齢に限らず)が内面に触れて、思わず惹かれていく姿だ。
言い換えれば、濃厚な蜜のように甘い世界にちやほやされ
うっとりと浸かりきり、外の現実に目を背いたまま楽に生きていくことも選べた彼女。
金、富、名誉、権力は魅惑的な自由を産み与える。
だけど
使い方を一つ間違えれば簡単にその身は滅びること。
その抜け殻は〝哀れさ〟を巻き付けたまま離れない。
そして、無情にもこの世が続くかぎり彷徨う負の記憶の化石となること。
喜怒哀楽のつまった実体験と見聞から心を磨きそのことに気づいたベラは学習した。
その結果、強靭な意志を組み立て自分こそは〝哀れなる者〟にならない道を切り拓いたのだ。
ラストはまるで悪いジョークのようだが、ふたりのベラの積もる思いがこれでもかと盛り込まれている。
だいぶ振り切った役柄を演じるエマが製作側に名を連ねこの衝撃力で世に出す意味、エンタメにおさまらない海のごとく深い思い入れが、フライヤーにある静かなる反逆の横顔とようやく重なる鑑賞後だった。
修正済み
humさん
共感&コメントありがとうございます。好きか嫌いかを超越したすごい作品でしたよね。
小説の解説のごとく素敵なレビューにいつも感銘を受け、いつも楽しみにしています!
humさん、こんにちは❗️
いつもながらの素敵なレビューで、作品自体も自分の印象より上品に思い出されます😉こういう映画が作られるということは、欧米の男性のほうが、自分たちの作ってきた社会規範の〝哀れさ〟についての自覚がかなりあるのですね。
日本では、いまだに『男が外で稼ぎ、女は家庭を守る』社会規範が根強く、仕事を持っていようが、専業主婦だろうが、無償家事労働の負荷が女性に偏り過ぎている。結果として、自分の方が偉いと勘違いしている男がなかなか減らない😞
コメントありがとうございます。
当事者の方は大変でしょうけどね。あのお手伝いの御婦人、少し手が離れたようで一安心。
エマ・ストーンプロデュースの「ダムマネー」も面白かったので、乗ってるな!という感じ。
こんにちは
共感とコメントありがとうございます。
ベラは自由奔放ですが、ズルさや悪意、ヒトが普通にもっているネガティブな感情が気持ちいいくらい無く、それも魅力的だったのかもしれませんね。元の夫への仕打ちは、ベラが初めて経験した他人への「悪意」で、それも彼女の成長の過程の一節かもしれないと思いました。
共感ありがとうございます。
自分なんか、将軍と理性的に話すようになったベラはちょっとヒトに毒された?感がありました。ゴッドが居なくなった屋敷は段々、普通の社会になっていくような気がします。
エンディングの拍手、日本でも連鎖するといいですね。いい作品への感動を誰かと共有してる気持ちになれます。
作品の感想は自分だけのもので、どう思おうと自由ですが、誰かと共有することで、感動に深みが増しますね。
こうして知的なレビューに出会えるのは実に嬉しい限りです。賛否両論のユニークな作品でした。
コメントありがとうございました。
>ラストはまるで悪いジョークのようだが、ふたりのベラの積もる思いがこれでもかと盛り込まれている。
「ふたりのベラ」確かにそうですね。しかも、彼にとっては妻と子でもある訳で。なるほどと思いました。
humさん
ベラを演じたエマ…ストーンの半端ない突き抜け感、強い意志を感じさせる眼差し、はて、どんな内容たったっけ?? … となり得ない、なかなか強烈な作品でしたね。
humさん笑いましたよぉ〜w
親の心 子知らず。
知らぬが仏。ですね(^。^)
でも私達(仲間に入れちゃったw)も、娘時代には親に言えないあんな事やこんな事。。
以下、自粛w
ゴッド博士の父性には愛を感じた。そしてすぐにあのお金に頼ろうとせず、自分でどうにかしようと考えたベラ。ベラの成長と共に本当の親子になっていったと思いました。
コメントありがとうございます。
humさんの絵葉書のくだり。何だかオシャレなハガキに見えるそれの深刻度。。
私もヒヤヒヤしましたよ( ´∀`)
そして、映像の美しさを十二分に味わう為に、あの世界観を浴びる為に、確実に映画館で観るべき作品。加えて別の意味で、家のTVでは観られない作品でしたね笑
個人的には、ゴッドは生き延びたと信じたいです。
アカデミー賞はオッペンハイマーが有力らしいですが、この作品がアカデミー賞を獲ってもおかしくないと思っています。
コメントありがとうございます。
小説みたいに素敵なレビューですね。
私の頭の中にあったポヤポヤしたものをきちんと整理して数式みたいに組み立てて美しい文章で説明していただけたようで嬉しかったです♪