「抜群に綺麗な映画だけど、恋人と見に行くのは2つの理由でやめた方がいいです」哀れなるものたち sskさんの映画レビュー(感想・評価)
抜群に綺麗な映画だけど、恋人と見に行くのは2つの理由でやめた方がいいです
最初に恋人と…というか、一般的な良識に沿って作品を観る人と観に行かない方がいい理由を2つ挙げます。
映画を観終わった後、乾いた笑いが響いていたので警告です。
1.解剖された人間の描写がかなり出てくるということが挙げられます。人体にメスを入れて血が出てくる、取り出した脳みそを切り刻むくらいは普通の描写です。
2. 主人公の性描写がかなり多いです。たぶん8人くらいとの交わりがあると思います。物語の序盤は白痴の人に対してそれを行うという嫌悪感を催しかねないインモラルさもあります。
以下、私の感想です。
109プレミアムシネマで観てきましたが、絵と音が抜群に美しいので、それなりの映画館で観ることをお勧めします。本当に美しく、音楽もシーンにとことん合わせて色々なところから鳴るので、映像体験として大満足です。
話の内容ですが、開始2分くらいで出てくるゴッドウィン博士の顔でもう「ああ原案はフランケンシュタインなんだな…」ということがわかります。
さらにゴッドウィン博士が解剖学の権威であるところから、「19世紀の解剖学といったらジョン・ハンター的な、マッドサイエンティストなんだろうな」というのも想像がつきます。要は一般的な良識や倫理観は理解しているものの、研究のために無視するマッドサイエンティストです。
また、序盤で話される内容ですが、主人公であるベラは博士の実験として成人の女性に新生児の脳を移植されており、精神と肉体の年齢が一致していません。
この状態で世界を旅することになるため、19世紀当時のキリスト教的な良識というものが備わっておらず、結果として激しく性行為に耽り、売春で金銭を得ることに疑問も持ちません。
なお、精神と肉体の不一致という設定は映画全編を通して、ベラの成長と共に無くなっていきます。最初は幼児言葉しか喋れなかったベラは、自分の欲望だけでなく自分の意見を語るようになり、最終的に自分の意志を言葉に表す様になります。
この幼児の様な姿から、決断した女性への変化の演技がとても素晴らしく、本当に見守っている様な感覚になります。
さらに、この設定は映画のフィルタにも適用されており、ベラの成長と共に最初は白黒だった世界が鮮やかなファンタジーの世界となり、次いで鮮やかだけど現実味を帯びてきて、最終的に明るいリアルな映像になっています。
リスボンあたりはフィルターもヴィヴィッドで、乗り物も絵本のような形をしており、映画のカメラが彼女の精神世界を反映していることが強調されています。
この作品で唯一疑問なのは、人間を進歩させると宣言したベラが、肉体の元婚約者である将軍にヤギ?の脳みそをくっつけたところです。
最後の最後でベラとマックスとヤギっぽいキメラがアップになって「なんでヤギがアップやねん」と思っていましたが、まさかくっつけるとは…。
ベラにとっての人間の進歩とは、どうしようもない人間を変えるための回答とは、これなんでしょうか?
それとも山羊頭の悪魔のような人間だったけど草だけ食べてる無害な人間になったという向こうのジョークなんでしょうか…?
最後だけよく分からなかったのですが、全編通して本当に面白い作品でした。2/3時点で今年1番の映画です!