劇場公開日 2023年10月27日

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SISU シス 不死身の男 : インタビュー

2023年10月26日更新

“死ぬことを拒む”新たなヒーローの誕生 ヤルマリ・ヘランダー監督が語る製作秘話

ヤルマリ・ヘランダー監督
ヤルマリ・ヘランダー監督

世界中のアクション映画ファンの間で話題を呼んでいるフィンランド映画「SISU シス 不死身の男」(10月27日公開)。タイトルの“SISU(シス)”とは、フィンランドの言葉で正確には翻訳不能。すべての希望が失われたときに現れるという、不屈の精神を意味している。

本作は、その“SISU”を武器に、伝説の兵士がナチス戦車隊をたったひとりで血祭りにあげてゆく痛快バイオレンスアクションだ。

主人公の老兵アアタミ・コルピ(ヨルマ・トンミラ)は“絶対に死なない”。その“不死身”ぶりが異彩を放っている。メガホンをとったのは、「レア・エクスポーツ 囚われのサンタクロース」「ビッグゲーム 大統領と少年ハンター」のヤルマリ・ヘランダー。映画.comではオンラインインタビューを実施し、製作秘話を語ってもらった。


【「SISU シス 不死身の男」あらすじ】

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1944年・第二次世界大戦末期、ソ連に侵攻され、ナチス・ドイツに国土を焼き尽くされたフィンランド。凍てつく荒野を旅する老兵アアタミ・コルピ(ヨルマ・トンミラ)は、愛犬ウッコを連れ、掘り当てた金塊を運ぶ途中でブルーノ・ヘルドルフ中尉(アクセル・ヘニー)率いるナチスの戦車隊に遭遇、金塊も命も狙われるハメに。アアタミが手にしているのは“ツルハシ1本”と“折れない心SISU”だけ。それでも戦場に落ちている武器と知恵をフル活用し、ナチス戦車隊相手に、機銃掃射を浴びても、地雷原に追い込まれても、縛り首にあっても、挙句の果てに戦闘機にツルハシ1本で食らいつく極限状態になっても、絶対に死なない。多勢の敵を相手に、アアタミはいかにして戦い、そして生き抜くのか――。


●「絶対に死なない」という要素はなぜ生まれた?

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――「絶対に死なない」という要素は、どのような経緯で生まれ、物語に取り込まれていきましたか? その背景を教えてください。

“ある男がナチスと戦う”というストーリーを先に思いつき、ナチスと戦えるほどの強靭なスーパーヒーローの存在が必要だと考えたんだ。ではその強靭さをどのように表現しようか……考えるうちに、フィンランドに古くからあるSISU(シス)の精神、フィンランド人の「逆境に立ち向かう精神」をコンセプトにしようと閃いた。

死なないと言っても「サイボーグ」のような男ではなく、自分の意志で“死ぬことを拒む”新たなヒーローが生まれたんだ。

――伝説の老兵アアタミには2つの特徴があります。それは「必要以上に喋らない」「死なないが、痛みは感じる」。この設定にした理由を教えてください。

世界中のオーディエンスに向けて映画を作る際、セリフはできるだけ少ない方がいいと考えている。主人公が喋らない方が、危機に直面したシーンの緊張感が極限まで高まり、シネマチックになると気づいた。言葉で説明するのではなく、それ以外の方法で物語に引き付けたいと考えた。

そして、このやり方は今後の作品でも取り入れていきたいと思っている。不要なセリフはすべて排除して、どうなるか試してみるのさ。

またアアタミがかなり苦しんでいる姿を見せることは大切だった。あのような状況にいれば、たとえ彼でも苦戦するし、何度も死にかけて当然だ。それでも彼は死ぬことを拒む。痛みを感じない男という設定にしてしまうと、一気に面白みがなくなるだろ。


●心躍るような“新しいアクション”が満載 監督のお気に入りは?

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――地雷を投げて敵を爆殺する、飛行機にツルハシでしがみつくなど、心躍るような新しいアクションが満載です。監督のお気に入りシーンと、そのシーンにまつわる秘話を教えてください。

他のアクション映画に埋もれずに目立つためには、戦闘シーンやアクションシーンをクリエイティブに見せる必要があった。僕のお気に入りは、「アアタミが水中で生き延びるシーン」かな。とても誇らしく思っているよ。あのアイデアを思いついた時は、30分くらい笑い続けていた。観客もきっと度肝を抜くだろうと想像しながらね。撮影は本当に大変だった。ずっと水の中だし、ゆっくりと撮影が進むから、無謀だと思ったくらいだ。でもうまくいって本当にラッキーだったと思う。

――後半部分では、虐げられた女性たちの活躍も印象的です。この展開を取り入れた理由を教えてください。

彼女たちを登場させたのは重要な意味があった。一つ目は、ナチスが女性を捕虜にしていたと知った時、僕の中で完全に意識が変わったからだ。ナチスに対するイメージがさらに悪くなったし、捕虜は一体どうなったのだろうと考えさせられた。二つ目は、ナチスにSISUとは何かを説明できるフィンランド人が必要だったからだ。彼らが、とてつもなく恐ろしい男を怒らせてしまった事を、思い知らせるためにね。

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――映像を盛り立てる音楽も印象的でした。音楽面でのこだわりを教えてください。

楽曲選びは、とても苦労した。作曲担当に“こんな音楽を作ってほしい”と伝えるためのサンプル楽曲が見つからなかったからだ。とにかくあらゆる曲や映画音楽も聴いた。単に僕が見つけられなかったのかもしれないけどね。でもいつもはもっと楽に見つかるんだ。“こういう曲”とか“これとこれを合わせたような曲”とか。

今回はウェスタン調で、神秘的かつ古風で、同時に古臭くなく新鮮さが欲しいというのは分かっていた。作曲家が、僕の求めている音楽がどういうものか理解してくれて、本当に有難かったよ。


●「チャプター(章)」を採用した理由は?

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――なぜ「チャプター(章)」を採用したのでしょうか?

脚本にはなかったんだけど、編集時に試しに入れてみたんだ。“最初は第1章で黄金にしてみよう。第2章はナチスかな”と。入れた理由は、シリアスに見えすぎないように、トーンを整えたかったからだ。アアタミが戦い始めた瞬間、まるで違う映画のように感じてほしくなかった。だから映画のムードやスタイルを伝えるためにチャプターを取り入れた。最初のボイスオーバーも同じで、映画のスタイルを伝えるためだ。“シリアスな戦争映画じゃないよ”と。チャプターを取り除こうとも思ったんだけど、他のみんなが気に入っていたから、そのまま残すことにした。

――アアタミが武器としても使用する「ツルハシ」。なぜ「ツルハシ」を“相棒”のような存在に設定したのでしょうか?

その答えは簡単さ。金を掘っているからだ。彼は目的地に向けて移動をしていただけで、もともと闘う気なんてなかった。とある目的地へ行くために、“火の粉”つまりナチスを振り払わなければならず、仕事道具のツルハシを使ったんだ。


●監督の“言葉”で「SISU(シス)」を説明するとしたら……

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――「SISU(シス)」は、正確に日本語で翻訳するような言葉がありません。改めて、監督の言葉で「SISU」というものを説明していただけますか?

僕の言葉でSISUを説明するなら、この映画になるだろう。実生活の一場面で例えるなら、この映画の脚本を書き上げた瞬間だ。

長い間、長編映画を撮っていなくて、思い浮かぶアイデアはどれも気に入らなかった。今何か作らないと、一生作れないだろうと危機感も感じていた。「SISU シス 不死身の男」は2カ月で脚本を書いたんだけど、決して楽しい時間ではなかった。周りはカッコいい映画を作って活躍していたから、彼らに嫉妬をしていたし、さらに輪をかけるように、真冬で暗いし、オフィスに閉じこもっていたからね。その怒りや苛立ちをすべて「SISU シス 不死身の男」の脚本にぶつけたんだ。


ヨルマ・トンミラのカリスマ性「撮影中は常に“すげえ!”と思っていた――僕なら死んでいた」

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――ヨルマ・トンミラさんとは、長編映画では3度目のタッグとなりました。トンミラさんの役者としての魅力を教えてください。

何もしていなくても、引き込まれるからだ。それがカリスマ性というものだと思う。彼にはカリスマ性があるから、カメラでとらえるだけでカッコよく見えるのさ。

撮影中は常に“すげえ!”と思っていたよ。僕はカメラの反対側にいたから、冬用の服を着て、スキーのゴーグルをつけて、帽子を被って、寒さと強風から身を守ることができた。でも彼は寒い中、水中に潜り、走り、馬に乗り、戦っていたんだ。僕は彼よりもずっと若いけど、できなかっただろうね。僕なら死んでいたよ。

彼の素顔は、役とは正反対だね。彼は私生活でもあまりしゃべらないけどね。演技をしていない時は、不思議と見た目も違うんだ。
 素顔は普通の年配の男性だけど、アアタミの役に入り込んだ瞬間、おそろしい表情になる。それがすごく面白い。

彼にニックネームをつけるとしたら、“ロールモデル”かな。全人類の男が、きっと彼に惚れると思う。

――これから作品を観る、日本の観客にメッセージをお願いします。

メッセージはシンプルだ。劇場にぜひ観に行ってほしい。

「精神力」ですべての危機を乗り越える主人公の戦いぶりは、日本の皆さんは特に楽しめると思うよ。

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