「愛し続けることの難しさ」四月になれば彼女は おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
愛し続けることの難しさ
何度も観た予告に惹かれて鑑賞してきました。公開2日目の夕方の上映回だったにも関わらず、300人規模の箱に観客は自分一人だけでした。おかげで作品にしっかり浸ることができ、周囲の目を気にすることなく涙を流し、なかなか贅沢な気分を味わってきました。
ストーリーは、精神科医の藤代俊のもとに、かつての恋人・伊予田春から世界各地の美しい景色の写真が添えられた手紙が何通も届くようになる中、現在の恋人であり、同棲しながら結婚の準備を進めてきた獣医師・坂本弥生が突然姿を消してしまい、その理由がわからない藤代は、周囲の人たちに相談し、弥生との日々、春との思い出を回想しながら、自身の恋愛を見つめ直していくというもの。内容もさることながらヨーロッパの絶景の数々が非常に魅力的で、これだけでも観る価値がありますし、今すぐにでも旅に出たくなります。
元カノからの手紙と今カノの失踪が、結果として収束していく流れは、ある種のミステリー仕立てにも見えて興味深かったです。また、その二つが下世話で短絡的なつながりではなく、それぞれの心に残る愛やそこにまつわるわだかまりを乗り越えようとする、自分と向き合うための大切な行動であったことに心打たれます。
失くしたものを取り戻すというのは、口で言うほど簡単ではありません。自分より大切なものの存在に気づきながらも、それを手放すまいともがくこともせず、結果として失った過去の苦い経験をもつ春。彼女が、それを乗り越えるために約束の地を独りたどり、それを経て新たな人生を歩み出そうとする思いに、目頭が熱くなります。
そんな彼女の強い思いに揺さぶられ、弥生は自身を重ねて彼女に会おうとしたのではないかと思います。失うことを恐れて手に入れない選択を心がけ、それでも藤代とならと愛に身を投じたのに、日々の繰り返しの前ではやはり愛が色褪せていく。このままでいいのかという思いがよぎった弥生は、人生でこれ以上ないほどの愛を藤代に感じた春の姿から、何かを得たかったのかもしれません。
それは藤代にとっても同じで、泥くさく相手に向き合うことをせず、誰に対してもどこか距離をとって接してきた彼は、この出来事を通して初めて人と本音で向き合い、心の深いところでつながる大切さを感じたのではないかと思います。春の命懸けの行動がきっかけとなり、失われかけた愛が救われたように感じます。
ただ、回想シーンが多く、時系列がちょっとだけ整理しにくかったのは難点です。また、登場人物の心情もはっきり語られているわけではないので、観る人の立場や経験により、全く異なる感想となるかもしれません。それはそれでおもしろいですが、やはり口で言ってもらわないとわからないことってあるよな〜って思い、弥生の失踪当初に周りから責められる藤代がちょっと気の毒に思えました。
主演は佐藤健さんで、困惑しながらも弥生を追う藤代を好演しています。脇を固めるのは、長澤まさみさん、森七菜さん、仲野太賀さん、中島歩さん、河合優実さん、ともさかりえさん、竹野内豊さんら。中でも、森七菜さんの大人の魅力が増した演技がとてもよかったです。仲野太賀さん、竹野内豊さんも、さすがの存在感を発揮しています。
私もすごーくモヤモヤしながら鑑賞しました。😅そしてようやく、やり残し伝えられなかったおもいを届けたのが藤代をおもうがための行動だったことだと。命の期限を悟った春の強さ、それを知ってやり直してみるきっかけを受け取った弥生と藤代の行動。ゆるがぬ長い歴史を持つ雄大な景色のなかで短い人生の中で右往左往してしまう人間、そして前を向くを大切さがじんわりおとずれました。
yuiさん、コメントありがとうございます。レビューを上げておられないようなので、こちらに返信いたします。
実は私も原作未読で、鑑賞後はモヤモヤしていました。でも、春と弥生と藤代が、それぞれの過去の苦い恋愛経験を見つめ直し、新たな一歩を踏み出そうとする物語だったのではないかと思い、今はわりとスッキリしています。タイトルも、心機一転して迎える四月のように、新たな人生の始まりを示唆しているような気がします。四月一日生まれなのに弥生と名付けられ、“三月”の仲間に押し込められていた彼女にも、新たなスタートなる“四月”が訪れたという意味かもしれません。
原作読まず鑑賞し、観終わってから、なんとなくモヤモヤが抜けず、色んな方のレビューを読んでいたのですが、おじゃるさんのレビューを読んで、ストンと落ちた感じがしました。
ありがとうございます!
弥生の失踪当初に周りから責められる藤代がちょっと気の毒に思えました。
→本当にそうですね。何も悪いことはしてないのに、みんなして責めるのは何で?って感じです。