「ループものは記憶の継続がデフォだが、それでも飽きがくるというのは面白い」ペナルティループ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
ループものは記憶の継続がデフォだが、それでも飽きがくるというのは面白い
2024.3.25 アップリンク京都
2024年の日本映画(99分、G)
恋人の復讐のためにとある1日をループする男を描いたファンタジー映画
監督&脚本は荒木伸二
物語の舞台は、日本のとある街(ロケ地は千葉県茂原市)
恋人・唯(山下リオ)と一緒に暮らしている岩森淳(若葉竜也)は、昼は植物プラントで働き、家では趣味の工作に明け暮れていた
ある年の6月6日の朝、岩森が目覚めると、唯はすでに出かける準備をしていて、彼は「今日はここにいてほしい」と唯の手を握りしめた
だが、彼女はそっと彼の手を解き、そのままスーツ姿でどこかへと向かってしまった
夕方になって、食事の用意を始めた岩森だったが、のどかな雰囲気を消し去るような激しい呼び鈴に驚いてしまう
唯が帰ってきたのかと思ってドアを開けると、そこには複数名の警官がいて、「確認してほしいことがある」と、岩森を近くの河川敷へつ連れて行った
そこは川に上がった遺体の発見現場で、岩森は被害者の確認をさせられる
遺体袋に中にいたのは、眠っているように死んでいる唯で、彼女は何者かに殺されて、川に遺棄されたと教えられた
物語は、次に岩森が「6月6日の朝」に起きるところから紡がれる
そこには唯の姿はなく、テーブルの上には見慣れない作業着がきれいに畳まれている
岩森は疑問に思うこともなくそれに着替えて、あるプラント工場へと向かった
そこでの仕事は室内栽培をしている植物の管理で、アラームが鳴ると機械をチェックするというものだった
午前の仕事を終えた岩森は、そのまま食堂に出向き、廊下を通りかかった電気工事士を見つけると、彼の行先である休憩所へと先回りをする
男(伊勢谷友介)は備え付けの自販機でコーヒーを買って工場を出るのだが、車に乗る頃にはコーヒーに盛られた何かによって、体調を崩してしまう
そして岩森は、弱った男を滅多刺しにして、その死体を袋に入れて、川へと遺棄して一日が終わるのである
映画は、この6月6日の復讐を何度も何度も繰り返す内容だが、記憶が継続するので、殺す側も殺される側も色んな対策をしていく
そして、4日目ぐらいには飽きが来て「殺さない」となるのだが、それでも「体は勝手に相手を殺しにいく」のだからタチが悪い
これらは「ある契約」によるVR体験なのだが、記憶の連続性はあっても、体のダメージは消えるので、何度も死ぬ&殺すを体験しなければいけない罰ゲームのように描かれていた
物語のテーマとしては、「復讐との向き合い方」のようなものだが、「殺しても次に生き返るから殺さない」と「殺しても復讐心は消えないから殺さない」では、導かれる感情というものは違ってくる
本作の場合だと「殺すのに飽きた」みたいな感じになっていて、7日間契約を終わらせることはできない
とは言え、VR提供組織の全容はほぼ不明で、リクエストに答えるVRという感じでもない
ラストでは、ミッション終了後に普通の世界に帰る前のご褒美というものが用意されているのだが、そこで岩森は亡き唯と再会し、その温もりにふれる体験をリクエストしていた
この一連の流れで岩森の溜飲が下がったのかはわからないが、ともかくは「ちょっと変わったループもの見たい人向け」というところは満たしていたのかな、と感じた
いずれにせよ、ループが惰性に変わって、本来の目的がどうでも良くなるという感じに変わっていくのは面白いアイデアだと思う
復讐は果たされないから募るのであって、いとも簡単に「すべてのものが用意されている状態」で相手を殺しても何も感じないだろう
所詮はVRのプログラムだとわかって契約しているのだが、実際の復讐とは程遠いもので、余計にストレスが溜まるような気がする
そういった意味において、この契約に同調したり、あったらいいなと思ってしまう人には「ペナルティがあるんだよ」と皮肉っているのかな、と感じた