劇場公開日 2024年2月16日

「◇中年男の一人相撲劇場」ボーはおそれている 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5◇中年男の一人相撲劇場

2024年2月20日
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鑑賞方法:映画館

 アリ・アスター監督作品といえば、『ミッドサマー』2019の印象が鮮烈です。ホラー映画の定石とは、か弱い清純な少女が恐怖の時空間に押し込められていくプロセス。一方で、ヒロイン-フローレンス・ピューの勝ち気で小生意気な雰囲気によって、あるべきヒロインへの同情や憐憫以上に、「もっと虐められればいいのに」というサディスティックな感覚が入り混じる奇妙なホラー映画体験でした。

 この物語の主人公-ボーは薄毛、メタボ体型、マザコンかつメンヘラ系のイケていない独身中年男。この人物を私の心の中でどう整理するか、最後まで不安定なままに移ろうように裏をかかれ続けた感覚でした。ホアキン・フェニックス演ずるあまりにも典型的なる『無能の人』。「こんな奴いそう」という演技のリアリティと突飛過ぎるシチュエーションのギャップ。

 主たる素材は『母をたずねて三千里』決められない情ない男の『心の旅🚶‍♀️』です。有り得ないぐらい治安が悪い街のボロアパートを出発点にして、歪な外科医家族、森の演劇集団、苦難の旅の末にたどり着いた母親の豪邸。そこでは終わってしまった母親の葬儀、その虚構と性的な昇天まで。盛り盛りてんこ盛りのコンテンツ、目まぐるしく変遷する設定、倍速のテンポ感。思考する隙さえありません。

 唐突に、小舟に乗って水辺を出ていく男の姿。👩‍🎨アルノルト・ベックリン#ArnoldBöcklin の絵画🖼#DieToteninsel 死の島を彷彿とさせます。最後に辿り付く屋内の水面は、母親の子宮の羊水でしょうか。母への旅は成長譚ではなく退行して胎児に戻る結末?

 コメディなのかホラーなのか、シリアスなのか間抜けなのか、妄想なのか現実なのか、宙ぶらりんのまんまで休むことなく過ぎる時間。情報量過多な露出狂的個人語りは、SNS社会と過度に大衆化した動画コンテンツ流布へのカウンターパンチ的な映像作品。そんな風に私には捉えられました。

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私の右手は左利き