「水色のペンキ」ボーはおそれている ミカさんの映画レビュー(感想・評価)
水色のペンキ
ボーの日常は、まるで毎日ホラー映画に出演しているかの様な恐怖に支配されていて、彼の様なパラノイアがこの社会でどれだけ生きづらいかを観客が体験できる作りになっていました。
劇中にやたらと出てくるゾンビみたいなジャンキーや異常に攻撃的な人達が、ジャンキーとホームレスが溢れ銃による殺人が頻発している病んだアメリカを象徴していましたよね。フィラデルフィアの街の映像をYouTubeでみたことがありますが、本作にでてきた様に街中ゾンビ(ジャンキー)だらけになっていましたよ。だから、ボーの妄想にもリアルな元ネタがあるのです。
私にはどうにも個人的なボーのストーリーに思えず、アメリカ社会全体の病みをボーの体験に投影させて鑑賞してしまいました。
また、ボーの母親も競争に勝ち抜き経済的には成功していましたが、精神的には孤立し追い詰められていそうでした。皮肉なことに、彼女が息子を《まとも》にしようとしている努力が成功に繋がり、《まとも》ではない息子をますます受け入れられなくなったのではないかと。
ボーは実家が太いからホームレスにはなりませんでしたが、もし母親が居なくなったら《死ぬ》か《ゾンビ》かの2択になります。嫌悪しているけど居なくなったら生きられなくなる相手に支配されるのは、確かに恐ろしい。
たかが実家に帰る無職中年男の話をここまで広げて作品を作り上げる創造力と力量は、アリ・アスターが実母から貰った《才能》というギフトでしょうか?アリ・アスターの母親が毒母であったとしても、彼はボーと違い成功者となりました。これも皮肉ですよね。
ボーに起こったこと全てがボーの妄想かと言われると、私はほぼ自宅のベッドで見ていたボーのリアリティのある妄想じゃないかと思いました。その中で一番怖かったのは、水色のペンキを飲むところ。私には全く思いつかないです、
また、ホアキンのだらしない姿と不安そうな表情がボーのキャラクターにぴったりでした。今一番のっている俳優はホアキンかと思います。