「悲しい苦しいけれど音楽が包み込む」キリエのうた yuuさんの映画レビュー(感想・評価)
悲しい苦しいけれど音楽が包み込む
こんなにも残酷なほど悲しくて、けど温かさもあって色々な種類の涙が溢れて、心に響きすぎて体温が上がるような映画は初めてです。それぞれの時代やシーンを行ったり来たりして感情がかなり忙しいけれど、重たい場面のあとに音楽の描写があることで上手く調和されていてなんとか心が保てるような感じでした。むしろ感情が忙しく揺さぶられる続けることこそ一つの映像体験として心に刻まれるようで、編集の絶妙さに感服します。
生きていると色々な種類の苦しみや悲しみが人の数だけあって、けれどその重さは誰にもはかれなくて、真実は本人の中にしかなくて、どこまで行っても悲しくて辛くて苦しくて希望はないのかもしれない。登場人物に思い巡らせながら、それでもその絶望の先にあるものを見つめていくこと、生きていくということを考えさせられました。決してスッキリ腑に落ちるような映画ではないのだけど、観終わった後には、余白と余韻で整理がつかない混沌とした気持ちさえも心地よくて、簡単に言葉にしてしまうのも勿体無いような大事で大切なものが心にじんわりと残ってる、そんな映画です。
この映画、音楽とアイナさんの歌声がとにかく素晴らしい。
個人的には広瀬すずさん演じるイッコ(真緒里)が不思議な魅力のある人物でハマり役。キリエ(路花)とイッコ(真緒里)2人のシーンは、どのシーンもどこか儚くて、でも可愛らしくて魅力的で、音楽と同様にこの映画の醍醐味かなと思います。
夏彦を演じた松村北斗さんは、希と出会った頃の精神的な幼さや危うさ弱さも、罪悪感や後悔などを背負い続け葛藤し続けるさまも、彼の表情セリフ回し一つ一つに夏彦という人物が透けて見えてくるようで、人の弱い部分生々しい部分を繊細に演じられていて素晴らしかったです。特に異邦人のシーンは、あの表情だけで夏彦という人物が見えてきて、ある意味ものすごい衝撃が走りました。
それから路花を演じた矢山花さん、なんだかすごい子を発見してしまったような感覚。自然に溶け込むように物語の中に存在していて、歌も上手で、とてもナチュラルなお芝居。彼女演じる路花が、教会で目に涙を浮かべたシーンは忘れられません。
震災の描写は想像以上で被災者ではない自分でも相当なダメージで、思った以上にリアルできつい描写がずっしりと体に心に響いて残ります。それだけではなく色々な意味で1度観てしまったからこそ、2回目以降の方が観る覚悟がいる作品だと思います。けれどそのきつさ重たさなくしてはきっとこの物語は成立しなくて、それでも映画の余韻の中で「キリエ憐れみの讃歌」が全てを包み込んでくれるような気がしています。