「何も変わらないなんて、そんなはずない!」PERFECT DAYS kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
何も変わらないなんて、そんなはずない!
ある初老の清掃員のルーティンを淡々と映し出す。
寡黙で、質素で、几帳面な男。
毎朝、近所の竹ぼうきの掃除の音と共に目覚め、自分が決めたであろう朝の営みを律儀にこなして家を出る。帰宅後も、必ず本を読んでから眠りにつく。そして、抽象的な夢を見るのだ。
仕事は公衆トイレの清掃メンテナンスたが、道具や消耗品を積んだミニバンは自宅アパートの駐車場に駐められていて、現場直行直帰の勤務形態のようだ。
出かける時に必要な小物は玄関の小さな棚に並べて置いてあり、それを端から順に取って家を出る。これだと忘れ物をしなくて良いと思うが、帰宅時にまたそこにきちんと戻すことなど私には到底無理なことだ。
なぜか、その棚にある腕時計だけはいつも置いて行く。
そしてある日、その腕時計を左手首にはめて家を出た。いつものようにタオルは持たず、車ではなく自転車に乗った。休日なのだ。
休日には休日のルーティンがある。
時に同じ映像を繰り返しているのかと見紛うほど、この映画はそんな男の日々を繰り返し見せる。
役所広司が演じる平山というこの男は、変化を好まない男のように見える。
しかし、世の中は変わる、物事は変わる、人は変わることができる…と、信じている男でもあることが物語の後半で判ってくる。ここがこの映画の深いところ。
毎日同じことを繰り返していても、当然ながらほんの少しずつ違うことが起きる。
いい加減な若い同僚(柄本時生)が惚れているガールズバーの店員(アオイヤマダ)。突然家出してきた姪(中野有紗)と、妹であるその子の母(麻生祐未)。行きつけのバーのママ(石川さゆり)の元夫(三浦友和)。
ルーティンには登場しない彼等を平然と受け入れる懐の深い平山は、彼等の心に何かを目覚めさせ、それによって自分自身の内面の何かを解放させてもらったようだった。
日々判で押したように同じことを淡々と繰り返す生活を軽視していた私は、だからと言って劇的な毎日を送っているのかと、自問自答した。単に規則正しく生活できない怠け者じゃないかと。
役所広司の微かな笑みや微かな涙が、実直に生きることの尊さを私の胸に熱く突きつけた。
この映画には劇伴がなく、平山が聴くカセットテープの音楽だけが流れる。アニマルズの「朝日のあたる家」、オーティス・レディングの「ドック・オブ・ベイ」など、60年代のヒットソングだ。(平山のライブラリにビートルズはない…ローリング・ストーンズはあったが)
これに二人の若い女性がハマるというのも、嬉しい演出だ。
気になったのは、平山が掃除する公衆トイレはどれもオシャレでキレイなことだ。平山の清掃の仕方もホテルやデパートのトイレかと思うほど丁寧なのだ。
平山の作業着に「The Tokyo Toilet」とプリントされていたので、調べてみた。
THE TOKYO TOILET の特設Webサイトを見ると、映画に登場する公衆トイレが写真付きで紹介されている。渋谷区内に17箇所の公衆トイレを設置し、現在は区に譲渡しているらしい。
名のあるデザイナーが設計し、大和ハウスとTOTOの協力によるこれらのオシャレな公衆トイレは実在した。
たが、これらを作るのも運営するのも資金が相当かかるだろう。毎日3回清掃をしてあの綺麗さを維持しているようだ。このプロジェクトの運営主体である「日本財団」とはいったい何かと思ったら、前身は「日本船舶振興会」だった。“一日一善”の「ドン」の落し子だったか…。
財政が安定している渋谷区なら、このトイレの美しさを維持できるかもしれないが、このプロジェクトを都心の裕福な区以外に広げていくのは難しい気がする…。
我が町にもあんな公衆トイレがあったら嬉しいが。
こんばんは♪ご返信いただき、
ありがとうございます😊
皆目わかりません。トイレが渋谷区で、毎晩通う焼そば屋さんが、
浅草とか。
Kazz さんお住まいの千葉市•県との位置関係も。⁇⁇⁇
あの道路が首都高なのですね。
という程度。あのアパート、なぜかのメゾネットタイプでしたね。
お風呂付いてたらいいのに。
タイトル、東京トイレ物語でもいいかも、ですね。🦁
肉体労働される方が真面目に仕事に励めば当然汚れも多い筈。
毎日洗うかKazz さんご提案の1週間分説が有効。コインランドリーに持って行ったカバンペシャンコでしたね。平山さん、掃除していないかも。いろいろとお調べいただきまして知識が増えました。
東京にお住まいならどの辺の撮影とかもよくおわかりになられるのでしょうね。渋谷区、浅草、とか。私などサッパリ⁉️
…彼等の心に何かを目覚めさせ、それによって、自分自身の内面の何かを解放させてもらったようだった。
まさにそうでしたね。それは、kazzさんがおっしゃるように平山さんが関わる人を〝信じているから〟始まることなのでしょう。
コメントいただきありがとうございました。(誤字がありましたので、こちらに差し替えました。文が前後していてすみません。)
実際近くに平山がいたらちょっと怖くて避けそうですw。
誰も見ていないところで徳を積んでいるような修行僧ぶりだから観客は憧れるのかもしれません。音楽の趣味とか、読書が日課とか、なかなか知的でカッコいい人だし。
そして病気を告白した初対面の友山さんにおどけてみせる優しい気遣いは彼をよく表しており、そんな彼だけにおそらくそう永くない父への思いがいかに複雑だったかが想像できます。
伝わることを〝信じる〟ように妹を抱きしめていた姿が切なくよみがえります。
共感&コメントありがとうございます
平山は、過去の地位も名誉も名声も捨て、父親と断絶して、
人間関係、仕事、自分、の時間の程良いバランスが取れた、自分の時間を持った生き方に変えたかったのだと推察します。生き方を変えれば、自分も変わるのではと思っていたと推察します。
しかし、人間関係、仕事は相手あってのことであり、予想出来ない事が起き、自分の時間が無くなるのはよくあることです。今回の場合は、相棒の若手社員の突然退社です。平山は激怒します。人間関係、仕事、時分、の時間のバランスの回復に躍起になります。
結局、現代社会において、仕事、人間関係の柵から逃れることはできません。故に、毎日、自分の時間を持ち自分の理想の時間を過ごすのは無理ですが、稀にそういう日はあると思います。
PERFECT DAYSはあっても、PERFECT LIFEにはならないと思います。
人生って、思い通りにはなりませんね。
では、また共感作で
ー以上ー
コメントありがとうございます。
こんなおだやかな生活いいな、とも思えるし、劇的じゃなくて今の自分の生活でもいいんだ、とも思える不思議な映画でした。
TOKYO TOILET プロジェクトの企画の一環で作られた作品ですが、そのような縛りがありながらここまで人間の生き方を描き切ったヴェンダース監督は改めてすごいなと思いました。