「吾唯足知。」PERFECT DAYS Noriさんの映画レビュー(感想・評価)
吾唯足知。
本編を鑑賞後、公式HPの監督・役所広司さん・田中泯さんのインタビュー映像を全て見た。コンセプトはあっても、それをどう演じるか、どう転がるかを主導するのは、役者である役所さん次第。まるでドキュメンタリーのように見えるのは、実際にこの作品が、監督も予測不能のまま撮影されているからなのか。
平山、押上の風呂無しアパートに住むトイレ清掃員。朝目覚め、髭や眉を整え、歯を磨き、木々に水をやり、作業着に着替え、片手にいつものコーヒーを携え車で職場へ。カセットデッキで音楽を聴きながら。休憩はいつもの神社のベンチ、木々の合間から溢れる木漏れ日に目を細め。帰宅後、銭湯で汗を流し、いつもの店でいつものヤツを味わい、読書し眠る。
休日は休日でまた日課が決まっている。
凡庸といえば凡庸で、決められたルーティンをただ繰り返している、退屈な日々のようにも思える。でも、本当に退屈なのか?というとそうではない。平山本人は、その日々を自分で選択して生きており、その何もないようでいて、何かある日々に満足して生きている。
何の役に立っているのか分からない仕事をして、給与をもらってるけど満足できない日々に埋没する。ブルシット・ジョブという言葉が時折耳に入ってくるが、それと対極にあるのが、平山の選んだ道だ。多くを語らず、他者と比べず、ただ自分のなすべき事を誠意をもってこなし、満たされていく。「吾唯足知」、年齢を重ねるにつれ、この精神が人を一段高みへと連れていってくれるのでは、と感じる。京都・龍安寺の蹲踞に刻まれており、2023.11に訪れたとき、改めてそうだよな、と感じたのを思い出す。
ルーティンをこなす日々にも変化はあって。一日として同じ日はない。木漏れ日がその姿を刻一刻と変えるように。店にいる客も違えば、トイレを使う人々も異なる。初めて会う人と、あるいは、長く会っていなかった人と、時を共にすることもある。そこから新しい何かが芽生え、また新しい日々が始まる。
かけがえのない今を、一日一日大切に、丁寧に生きる。その積み重ねがその人の人生を紡ぐ。
平山の境地まではなかなか辿り着けないかもしれないが、feeling good な人生を歩みたい。