「どんな魔法でこんな映像が撮れるのか」青春 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
どんな魔法でこんな映像が撮れるのか
中国の現代史と現代社会をドキュメンタリーとして記録し続け、当局からの圧力により今ではフランスで作品作りを続けるワン・ビンの新作が登場です。僕は、ワン・ビンならばとにかく観ます。今回は、上海近郊の縫製工場で一日中ひたすらミシンと向かい合う若い労働者の日常をひたすら追い続けます。ドラマチックな仕掛けがある訳ではないのに飽きる事なく、眠くなる事もなく見入ってしまいました。
ワン・ビン作でいつも不思議に思うのは、「市井の人々の生の感情をどうしてこんなにも自然にカメラに収める事が出来るのだろう」と言う事です。カメラの前で若者たちは本気で殴り合いの喧嘩をし、仕事中に男女がラブラブの会話を交わし、妊娠した娘の堕胎を望む両親が工場に乗り込んで来ます。人々がカメラを意識しなくなるまでワン・ビンは一日中ひたすらカメラを回し続けるそうですが、「それにしても・・」と首を傾げます。彼はどんな魔法を使っているのでしょう。
そして、彼らには「どうしてお金を稼ぐか」と言う事が大きな問題です。工場長との給料や単価を巡る喧嘩腰とも映る言葉のやり取りは生々しい光景です。これって「全く純粋な資本主義の断面」です。この何処に共産党一党独裁国家のイデオロギーがあるのでしょうか。
と言いつつも、本作の中から浮かびあがるのはタイトル通りの「青春」なのです。遣りたい事があり、貯金の目標があり、異性の気を惹きたくて、向こう見ずな暴走があります。若い人の思いをイデオロギーが左右する事は出来ないのでしょう。
全編3時間半と、ワン・ビンらしい長編ですが、多くの人に観て欲しい一作です。
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