「したたかな中国経済」青春 himabu117さんの映画レビュー(感想・評価)
したたかな中国経済
優れたドキュメントを送り出すワン・ビン
舞台は、中国上海長江デルタに位置する織里という街の小さな衣料品工場。
そこで働く、農村部出身の10代〜20代の若者達の日常をカメラは追う。
物凄い勢いでミシンをかける若者たち。
決して大手の工場ではないけど、それなりに収入がある。
彼らは、高卒だろうか中卒だろうか、よくわからない。
ただ、インテリ層でないのは、まちがいない。
まず、その生活の場が雑然としている。
仕事場は、まあそれなりなんだけど。
彼らの住居、寮が汚い。
一つの部屋にベッドが五・六台置かれているだけ。
そこで雑居生活。
プライバシーもへったくりもない。
だけど彼らは、そんなことは気にしないみたい。
なにせ最近まで公衆トイレにドアがなかった国。
プライバシーという概念そのものがないと言ったら、失礼だろうが。
子供の頃から、共産主義国家の集団生活になれているからだろうか。
生活の中心は「スマホ」
これは、万国共通だろう。
とにかく暇さえあればという感じ。
パソコンではない、まあそんなスペースもない、一人ベット一台の私生活。
だけど着るものは、それなりに見栄えのする若者ファッション。
そのあたりは、衣料品工場ということもあるのかな。
しかし、食生活はお粗末。
まあ、若者だけの共同生活だからこうなるだろなと思うのだけど。
ほとんど、野菜なしの炭水化物生活。
年取ったらガタくるぞ、なんて忠告したくなる。
部屋は汚し放題、あちこちにゴミが散らかり。
たまに掃除でまとまったゴミは、階段から大きなコンテナ袋で、階下に投げ捨てる。
階下に人がいたら大怪我するのに、「夜中だから歩いている人などいない」と平気。
ルール、きまり、あってないような世界。
日本の昭和40〜50年代をさらにパワーアップした感覚だろうか。
とにかく、彼らは、稼ぐことに夢中だ。
こんな彼らの働きが、私達のファストファッションを支えているのだろうか。
舞台は、2014年〜2019年だから、現在とはまた様子が違うのかもしれない。
しかし、最近の「SHEIN」や「TEMU」など中国ブランドの躍進を見ると、まだまだ中国は、元気なのかもしれない。
バブルは終わる
景気はいつかは後退する。
いや、もうそうなのかも、だけど中国のその実態は、決して外にはもれてこない。
映画の時点の若者たちは、出身地の農村部に豪邸を建てていた。
あの年代だもの今が良けれは、後のことなど考えない。
日本だって、高度成長期には、地方出身の中卒の集団就職があり、彼らは「金の卵」ともてはやされた。
その姿と重ね合わせてしまう。
ただ、二十代半ばで豪邸は無理な話だけど。
それだけ中国経済の爆発力を見る思いがする。
ただ日本の場合、わりと長いあいだ好景気が続いたことで、社会整備ができたこと。
つまり社会福祉の分野で、医療保険や年金などなど。
中国は、進化も早かったけど、後退も。
おそらく社会のインフラや福祉の分野でどうなのだろうか。
都市部と農村部の格差。
医療体制、年金や介護問題。
一人っ子政策の失敗もあるはずだ。
ただ、映画『青春』の主人公たちからは、そんな影は微塵も感じられない。
そうだろう。
ただ、その後どうなったのか興味深い。
中国社会の動向に。
そして、ワン・ビン監督の次回作に大きな興味が湧く。