「ハリウッド商業主義」メイ・ディセンバー ゆれる真実 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
ハリウッド商業主義
2023年で一番、賛否の分かれた映画だとか。
この映画はアカデミー賞に限れば、脚本賞にだけ、ノミネートされた。
そこで脚本を書いたのは、サミー・バーチという名の女性で、
サミー・バーチは原案者でもある。
サミーさんの写真を見ると、30代後半に見える活発そうな女性。
(経歴は全く分かりません)
この映画のモチーフになった「メイ・ディセンバー事件」は、
アメリカでは、「ジョンベネ殺人事件」と1、2を争う加熱報道に
晒された事件との事です。
ミステリーおたくの私は、5歳のジョンベネちゃんの可愛い映像を
1ケ月位毎日テレビで見たものです。
「メイ・ディセンバー事件」は記憶にないです。
ジョーのモデルになった青年(と言っていいほど、イキイキして
利発そうな顔をしたちょっと浅黒い肌の混血男性)
「僕には事前になんの相談も取材もなかった」
「聞いてくれたら、チカラになれたのに、実際はもっと複雑なのに」
この映画のジョーは無力な指導権をグレイシー(ジュリアン・ムーア)に
奪われて、父親としても、たった13歳しか歳の差のない自信のない姿。
ラストの方のシーンに双子の娘と息子の
ハイスクール卒業セレモニーがあります。
それは校庭なのか日差しが眩しく、ひな壇に並ぶグレイシーとエリザベス
(ナタリー・ポートマン)はサングラスを掛けて座っている。
ジョー(チャールズ・メルトン)は校庭の片隅のフェンスに、隠れるように
双子の晴れ姿を嬉しそうに見つめている。
決して家族4人の晴れやかな写真撮影やお祝いの家族パーティーは、
開かれないのです。
全米の好奇に晒された青年の1996年から20年以上にわたる年月。
ハリウッドの権力者・・・制作者・監督・原案・脚本そして
2大演技派実力派女優は、彼の受けた差別や心労、
乗り越えてきた苦悩に、ほんの少しでも報いただろうか?
彼の事件を蒸し返した罪に、気が咎めただろうか?
ラストシーン。
グレイシーそっくりの赤毛と、かなり着膨れて太らせて、
ジュリアン・ムーアに似せたナタリー・ポートマン。
「毒ヘビではないのよ、怖がらないで」
このシーンこそ憶測と推測の創作に過ぎないのです。
グレイシーが、言う。
「私の心は満たされているの」
誰だって、そんな気持ちの日もあります。
ジョーの心は満たされていたのでしょうか?
グレイシーは故人です。
ジョーの胸の内・・・こそが知りたかったです。
モデルになった無力な青年には、反論の機会もチカラもないのです。
不快を煽る大音響が何回も鳴り響く音楽。
見終わって虚しさと疲れを、とても感じました。