「虫がダメな人は見るのをやめよう(芋虫・蛹・蝶が頻出します)」メイ・ディセンバー ゆれる真実 海渡さんの映画レビュー(感想・評価)
虫がダメな人は見るのをやめよう(芋虫・蛹・蝶が頻出します)
「面白かった!」というよりは「考察しがいかある」という映画。全然スッキリもしないし、何の解決にもならない。あなたにとってのメイ・ディセンバーがあると思う。
表題にも書いたけれど、虫が要所要所に出てくる。ジョーの精神のメタファーかなと思うけど、結構アップで映るので苦手な人はやめよう。私は字幕だけ見てたぞ。
あと音がずっと不穏なのでそういうのが苦手な人にも向かない。
個人的にはモキュメンタリー?みたいな感じに見える。
グレイシーのお化粧が正直年齢的に無理があるのでは?と思ってしまう。けど、それこそがグレイシーの年齢を表している様だった。あとエリザベスにその色は似合わなくね?と思ったけど、次のシーン以降はちゃんとエリザベスが自分に似合わせてたから凄かった。チークとアイシャドウも揃えてたね。少女の様なピンク。というかお洋服や髪型も後半に行くにつれ本人に寄せてたような。
娘が試着した時に「すごくよく似合ってる!時代かしらね、そんなに腕を出してしまえるなんて羨ましいわ」みたいな事言っててゾゾゾとした。母からの呪いです。
以下、考えぐちゃぐちゃなまま書き殴る乱文。
グレイシー36歳、果たして彼女は"まとも"なのか。36歳のグレイシーと13歳のジョーは果たして本当に両思いで、合意の上だったのか。そもそも本当に二人の間で性行為は行われたのか?
とか、色々考えてる。
私はグレイシーは無邪気じゃなくてまともだけどとてつもなく利己的なんだろうなと、思う。今日を明日を幸せに生きたい彼女が、自分が幸せな人生を送るにために何も知らない13歳の子供を利用したんじゃないかと思う。
グレイシーは兄二人弟二人で守られて育ったという話があったけれど、守られていたというのは全て制限されていたということでもある。36歳までそんな生活を強いられたら狂いたくもなる。その上家から出たくても父親からは「家を出たいなら花嫁か棺桶の姿で」と。怖すぎ。自立させたくなさすぎ。嫌すぎ。まあ、当時の時代背景がどうかは知らないけれど、2024年の今そんなこという父親なんて毒親でしかない。
ペットショップ(=家族の手が入らない所)に入り浸って常連になって店番をやって几帳面に帳簿を付けて取り入って信頼を得て、人員補填の話を店主側も受け入れてる。凄い。「最低賃金で雇えば」というのも、最低賃金であっても働かなければならない程困窮している人が来る想定だよね?だから立場的に弱い人を意図的に呼び寄せてるのではないかと思う。
韓国系のご家庭は地域に一軒。そのくらい地域的にその事実は知れ渡ってるんだから兄弟の面倒を見ている長男がいることも、知ってたでしょう。そうしてジョーは実際に13歳でも最低賃金で働かせてもらえるペットショップへ足を踏み入れてしまったんじゃないの。
まんまと引っかかってしまったジョーは兄弟の面倒を見てしっかりしていたとして、11歳の「しっかり」なんてたかが知れてるって大人は理解出来てしまうわけで。苦労人のジョーは嬉しかったろうな。大人の綺麗で可愛くて優しいお姉さんが「わかるよ」と優しく寄り添ってくれるの。13歳でなくたって嬉しいよそんなの。
そこで本当に性行為があったとしてもなかったとしても、グレイシーは手紙を渡す事でジョーを完全に食い切ったんだと思う。あれは呪いですよ、呪い。「私はあなたが誘ったからそれに乗っただけなのに何故か捕まったの。愛してるわ、あなたが私を愛してる様に」とかいう呪い。怖。13歳で判断能力なんて大してないうちに真実かどうかもわからないのに、優しく寄り添ってくれるお姉さんから「あなたが私を抱いたから投獄されたの。でも私たちは何の罪もないわ、だって私たち愛し合っているんだもの。そうでしょう?」なんて言われたらそりゃ。言うわよな。そりゃな。自分にしかお姉さんを救えないんなら救いたくなるもんだよな。13歳だもん。愛してるって言うだけだもんな、その時は。もっと言うと、自分の行動のせいで投獄されたお姉さんを救えるなら、その自分の罪を背負ってくれたお姉さんを救えるなら言うよな。愛してるってな。
ただ、エリザベスから少し優しくされただけで寝ちゃうし絆されるし助けを求めてしまってるわけで。36歳でそれなら13歳の時なんてそりゃもう、チョロかったろうなあ。もしかしたらまたこの人と寝れば今置かれている自分の立場から逃げれると思っちゃったのかな、とも思う。24年前のジョーはそうしたんだろうから。
こうしてグレイシーは36歳にして幼い奴隷と自由を手に入れたわけだな。「無邪気な少女」のまま「ジョーに理解を示すお姉さん」としてね。そして、ジョーは13歳にして「自分を理解してくれて導いてくれるお姉さん」と自由を手に入れたわけだ。まあ、13歳の少年にとってはであって、36歳の青年にとってどうかはともかく。
生まれた子供が母譲りの金髪でも父譲りの黒髪でもなくても、ジョーが是と応えたのだからあれはジョーとグレイシーの子なわけで。(これは染色している場合無関係である)今なら遺伝子検査出来るけど、したのかな。まあ第一子はジョーの父とグレイシーの子な可能性もあるからなあ。だからこそ地域で一軒しかない韓国系の家の実子を使うしかなかったのかもしれないね。たとえそれが13歳の少年の人生をむちゃくちゃにしたとしても。
グレイシーは12歳頃から二人の兄によって近親相姦を受けていた(?)みたいな証言があって、それをグレイシーは否定していて。それが真実であればグレイシーは被害者でありジョーは二次被害者の可能性が高くなって今の幸せな生活は壊れるわけだから否定するしかないよなと思う。グレイシーにとって小さな奴隷と愛し合っているからこそ成り立っているしあわせな生活なんだもんな。
一晩経ってやっと気付いたけど、次々に役者を現場に連れて行ったのはすりあわせのためか。お菓子屋さんって言われては洋菓子屋を想像するのと和菓子屋を想像するのではだいぶ違うもんね…。
エリザベスは記者じゃなければ救世主でもない。それこそ誰よりも利己的な理由でグレイシーのこともジョーのことも、家族ごと、たかだか「作品」のための観察対象だと思っているところが最高に狂っていて良かった。
こんな事を書いているとまるでグレイシーが加害者で、ジョーが被害者の様に見えるかもしれない。でも、自分の自由のためにジョーを利用したグレイシーと、自分の平和と安寧のためにグレイシーを利用したジョーの話なんだと思った。そこに愛があるかはわからない。愛があるかどうかは多分、彼女にとってどうでもよくて、彼にとってもどうでもよいものだから。