「実に嫌らしく意地悪極まりないけれど、それが面白い」メイ・ディセンバー ゆれる真実 クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
実に嫌らしく意地悪極まりないけれど、それが面白い
張本人グレイシーと映画化で彼女を演ずるためのリサーチに訪れた女優エリザベス、2人がメイクの仕方をネタに鏡の前で語り合うシーンが本作の白眉。明らかに色白のジュリアン・ムーアがややダークな肌色のナタリー・ポートマンに化粧を施し、そして鏡を揃って見る。無論、鏡がある前提で2人は本作映画のカメラに対峙している。ブロンドとブルネットと大きく異なる髪色、当然に実年齢は21歳も異なる、にもかかわらず双子のように鏡に向かってその存在を揺るがす様相が恐ろしい。
監督トッド・ヘインズ、出演ナタリー・ポートマンそしてジュリアン・ムーアのオスカー女優同士、とあらば観るしかないわけで、まるで何の予備知識もなしに鑑賞。後で調べましたらなんと実話! 13歳の少年と36歳の既婚女性の恋愛スキャンダルが20数年前に起こり、コトが表ざたとなり未成年相手ゆえに罪に問われ、実際に服役までし、しかも獄中に少年の子を出産とは凄まじい。こんな実際の事件を基に、映画化と言っても、事件からなんと23年後の設定(と言う事はほぼ現実の現在)で、しかも劇中で映画化のために主演女優が役作りのために訪れると言う、トッド・ヘインズらしい凝りに凝った設定。
と言う事は本作のためにジュリアン・ムーアは張本人に逢ったのだろうか?それもナタリー・ポートマンと一緒に? なんて考えだすと堂々巡りでラチが明かない。いかにも癖のある大女優ジュリアン・ムーアに、若きチャレンジャーとしての名女優ナタリー・ポートマンが挑戦してゆく映画として私は観た。簡単に言ってしまえばミイラ取りがミイラに、に近いものの、そもそも答えをまるで用意していない風情に、ひたすら混沌だけが残る。その意味で実に後味悪く不快レベルでしかない。けれど大女優2人がこんな低予算の作品に真摯に取り組み恥部を曝け出す寸前まで追い込む演劇的PLAYが面白いのもまた事実。
厭らしいのは過剰に大仰な伴奏音楽で、どうやら意図的にガンガンと何でもないシーンにドラマチックに鳴り響く。この違和感こそが監督の意図かもしれません。嫌がらせの排泄物が送られても、どこ吹く風の奇怪さ。リサーチとは言え、ここまで家庭の深部まで上がり込んでいいのかしらの違和感。挙句の果てはエリザベスはグレイシーの若き夫と出来てしまうとは。無論これは本作の脚色でしょうが、考えるだけでおぞましい。清楚なイメージのナタリーの壊れようが凄まじくて、面白い。
ラストはいよいよハリウッドでの撮影シーンで、ブロンドに染めたエリザベスが少年相手にラブシーンの語り。3テイク目にやっとOK出たにも関わらず、エリザベス自ら「もう一回やらせて」のシーン。役に入り込み過ぎたのか分かりませんが、明らかに主人公自身の混迷が見て取れる。本当に意地悪な映画です。