劇場公開日 2024年4月26日

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エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命のレビュー・感想・評価

全64件中、61~64件目を表示

4.5教育と順応

2024年4月26日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

イタリア統一・独立の気運が高まる教皇領と、「異教徒の中で暮らす同胞の保護」という名目でカトリック教会に引き渡されたユダヤ系の少年・エドガルドの半生を描いた作品。

エドガルドを迎え入れた修道院の人々は、彼に対しユダヤ教を強く否定することはせず、彼の日常を淡々とカトリック式に塗り替えていく。
彼に洗礼を与えた人物、彼の引き渡しをモルターラ家へ求めた地元の教会、ローマの修道院の人々、皆が自然なことの様にエドガルドと事件に対応している。
彼らにとってはそれが善行で秩序なのだから当然なのだが、その迷いの無さが何とも恐ろしかった。

人の思想や秩序を塗り替える行為は、宗教に限らず権力の交代や新しい主義主張の登場に伴って行われている。現代においても、本作で描かれるような強引な思想統制の事例には困らない。
淡々とエドガルドの日常を塗り替える人々と、彼らの理想の形に育ったエドガルドを見て、自分がいつ塗り替えられる側、あるいは迷いなく塗り替える側になってもおかしくないのではないかと怖くなった。

本編ではエドガルドの内心は殆ど語られない。移された環境の中で与えられたものを吸収していく間、彼は何を思っていたのだろうか。
一人ローマにやって来たエドガルドにとって教会は衣食住の全てで、後に仕事にもなった。カトリック教会は彼の保護者で、法である。人間が環境に順応することや価値基準を変化し得ることは、社会が教育や更生の機会を捨てないことの前提でもあるので、少年エドガルドから青年エドガルドへの変化を不自然と言うつもりはない。
ただ、母に言いつけられた祈りを行わなくなっていく時、ユダヤ教のお守りに触れることが減っていく時、家族との日常の中で繰り返していた習慣から遠ざかっていく時、エドガルドは何を考えていたのだろうか。

家族から強引に引き離すことを暴力だと感じることも、信教の自由が無い環境に疑問を持つことも、エドガルドや遠い過去あるいは未来の人には異端に見えるだろうか。

宗教が招いた事件を、宗教的価値観やその善し悪しを断じずに冷静に描いたエネルギーを讃えたい。

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うぐいす

5.0今、見るべき1本

2024年4月17日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

光も煙も美しい。圧倒的な美しさは人の心を魅力し奪う力を持っていると感じました。
神々しさにひれ伏す危険。

聖母子像を崇めてるくせに、母から子を引き離すなんて。
この愚行。愛と平和を説いたはずのイエス・キリストが知ったら嘆くだろうて。
目的と手段が狂ってる。
ただただ権力を誇示したいだけに思えました。
イエスがなんで律法学者を批判して神殿をぶち壊したかわかってる?
法皇に対して、ちゃんと新約聖書読んだ?と問いただしたくなる。
悪者に仕立て上げるような単純な描き方はされていないのに、ふつふつと湧き上がる怒り。
忠誠を誓わせる行動や罰には怒りで吐き気がしました。相手の尊厳を無視した傍若無人な振る舞い。
ボディブローのようにじわじわ効いてくる映画です。

そもそも人を救うって何?
救いを求めて神にすがるのは個々の勝手だけど、別に求めていない人を無理矢理救うなんて大きなお世話。
しかも洗礼を受けたくて受けた訳じゃないのに。

恐ろしいことに、頭の硬い大人だってカルト教団に洗脳されるんだから、子供はスポンジのように吸収してしまう。
閉ざされた社会の中の閉ざされた集団のなかで正しいと教えられたことが全てになっていく。
怖すぎる。

イエス・キリストとの幻想的なシーンが素晴らしい。
子供の頃、十字架に磔られたキリスト像や絵画がとても怖かったのを思い出しました。
怖いけど、なぜだか目が離せない。
なぜこの人はこんな仕打ちにあっているの?
どうしてこんな残酷なことが出来るの?
キリストは復活したのに、いつまでも磔にしておきたいのは、罪と罰と恐怖で縛りつけたいと願う組織なのでは?と感じました。
神の名の下にやりたい放題。

ユダヤ教もキリスト教も根っこは同じなのに…
ガザ地区を思わずにはいられませんでした。
今、見るべき1本です。

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shiron

4.0教皇は理不尽

2024年4月10日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

知的

難しい

宗教対立になじみのない日本人としては、キリスト教とユダヤ教の宗教対立はわかりにくかった。
親子の情と宗教の重さの違いがむずかしい。日本人からすると親子の情が勝ると思う。
そんな感想を抱く映画でした。教皇は、理不尽とおもったのは、宗教観のちがいだろうか。
100年前の話です。

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わせい

3.0洗礼という名の誘拐

2024年2月16日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

絶対権力を持つ組織に潜む歪みへの追究にこだわってきたマルコ・ベロッキオ監督。本作では19世紀のイタリアの枢機卿が起こしたユダヤ人少年エドガルドの拉致事件を通して、権力とは、宗教とは、神とは、そして家族とは何かを問う。
教会によるエドガルドの連れ去り行為は、原題『Rapito』や英題『Kidnapped』が示すとおり、「誘拐」以外の何物でもない。2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が勃発して以降、ロシア兵がウクライナの子どもの移送を開始。名目上は「戦地孤児たちの保護のため」としているも、その実は里子や養子に出され、養護施設でウクライナ語の使用を禁じられてロシア語を学ばされ、さらにはロシア兵の軍事訓練を受けさせられている。誘拐した子供の“洗脳”は今でも行われている。
キリスト教の“洗脳”を施されたエドガルド、そして実の家族の顛末が切ない。

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regency
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