「事実はどうでもいい 人からどう思われるかが重要」落下の解剖学 オニオンスープさんの映画レビュー(感想・評価)
事実はどうでもいい 人からどう思われるかが重要
タイトルは映画の序盤にあった弁護士のヴィンサン(スワンアルローさん)のセリフを引用させて頂きました。
(すいません、一言一句は覚えてなかったのでこんな様な事を言っていた、という感覚で捉えてくれると幸いです)
本作は、このレビューのタイトル通り真実を映すものではなくて、ヒロインのサンドラ(ザンドラヒュラーさん)への「印象の変化」を楽しむ映画だと思いました。
一つの事件を巡って起こる法廷ミステリーものと思っていましたが、
実際は精神的に少し余裕のない(どこの家庭にもありそうな、仕事、お金、子育て、性、不運な事故、等々の生活に多少の問題を抱えた) 2人の夫婦とその息子という、単純明快にはいかない人間関係の感情の機微や認識のズレから、軋轢、衝突、を夫の死という事件と法廷を建前にして、サスペンスモノに重点を置き、それらの人間模様を個々人の証言、会話、解釈から暴き、サンドラというより、人間なら誰しもが持っている人間の奥深くにある多面的で利己的な部分をうまい具合にあぶり出し、見事に描き切っている、非常に見応えのある面白い映画でした。
上記の様に推理モノではないため、いわゆる映画的などんでん返しや犯人の確定、犯行の瞬間などの決定的で客観的な事実が判明する事は無く、それぞの発言から憶測が飛び交い、真相は誰にも分からない作りになっています。
神的、第三者的視点が入っておらず、観客は検察側も弁護側も両者の証言と状況からでしか判断できないため、見てる側はただの観客に留まらず、娯楽性を求めるコメンテーターやテレビ番組、裁判の傍聴人、陪審員さながらサンドラへの印象が翻弄され、一気に映画の世界に引き摺り込まれる作品でした。
全体的に良かったのですが特筆すべきは、母親のサンドラとその息子ダニエル(ミロマシャドグラネールさん)の圧倒される演技では無いでしょうか。
夫に見せる狂気的な表情から一転、法廷から息子を不安気に見つめる表情まで見事に演じきっていました。
ダニエルも最後の証言の意思の強さを全面的に感じる凛とした顔、母親が無罪だと下された事を知った時の安堵の表情、もう脱帽です。最高です。
パンフにあった「対立はあれど、矛盾はない」という一言が言い得て妙でした。
どちらの言い分も分かる、本当に振り回されました。
喧嘩の音声のシーンで暴力シーンを映さなかったのは憎たらしいほど上手い演出でしたね。
この映画は明らかにミステリーでは無いため、ミステリーであるかの様な宣伝やあまりに主観的な証拠の言い合いへの批判は確かに否めません。
ただ個人的にはそれらより、家族の有り様のリアリティーや会話や設定で十分楽しめたので、高評価という軍配を上げさせて頂きました。
公開から一週間以上も経過していて、恐らくこの映画を高評価している方達と同じ様な感想だと思い、今更レビューするのもどうかと思ったのですが、評価が意外にも低いので堪らずレビューをあげさせて頂きました。
最後にこの映画を表したかの様なニーチェの文言がありましたので、その言葉で締めさせていただきます。
事実というものは存在しない。
存在するのは解釈だけである。
今晩は。
初めましてでしょうか。
”事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである。”今作は、ヒロインのサンドラが夫ありき時に行った行為、言動が明らかになって行く所に焦点を当てた点が面白かったですね。私は学生時代に法律(刑事訴訟法)を学んでいたので、模擬裁判も頻繁に行いましたが、当時の日本を代表する教授から言われたのは【被告の行いを直接的に問うのではなく、被告の人間性から問うて行け。さすれば事実は明らかになる。】という事でした。
今作ではサンドラの言動、行為が夫を精神的に追い詰めていたのだと私は思いましたが、息子の母を思っての言葉で無罪になったのだと解釈しました。”落下の解剖学”という邦画タイトルも上手いなと思いました。悪人は誰も居ないのに、日々の夫婦のすれ違いから起こった悲劇だと思いました。では。返信は不要ですよ。
これからも宜しくお願いいたします。