劇場公開日 2024年2月23日

「タイトルなし」落下の解剖学 えみりさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5タイトルなし

2024年2月26日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 予告だと完全犯罪サスペンスかと思い込んでた。日本の非人格的な法廷と異なり、いろいろ民度が違う。それでも検事のクソ解釈は最低だった。
 夫婦の喧嘩のシーンは圧巻だし、夫が壊れていく様子が徐々に明らかになる。
この映画の主人公は子どもだ。一人になりたいとしたのは、自分で考えようとしたから。素晴らしい。確かに彼を保護しようとしても、ネットの言説は溢れている。すべてを聞き、知らなかった親の真実を知り、父と母の間で引き裂かれながら、彼は自立していく。
 裁判の夜、母に会うのが怖かったのはそのせいだ。明らかに二人の関係性は変わる。
 私自身も彼が本を出せなかった同様のシチュエーションを経験したので、見るのが苦しかった。
 彼女のほうが自由奔放に見えるかもしれないけれど、こんな山奥に、しかも彼の故郷についてきた彼女の適応力と優しさのほうに、私は想像が及ぶ。彼女の言葉は攻撃的に見えても、彼の真実を言い当ててるだけ、迫力がある。これだけ苦しんでたんだから、もう少し優しくできなかったかとも思わないことはないけど、こんなふうにしか断ち切れなかったのだろう。時間をシェアするという方法ではなくて、彼のやり方を拒否するという形でしか、突きつけられないのも、もともと彼のほうが先生だかで優位にあったからでもあるかも。向き合わないという彼の言葉への反応が一瞬、彼女のわがままに見えても、それ自体が男の暴力なのだということが少しずつわかる。そして、子どもが遡及的に父の言葉を理解するくだりは素晴らしい。目が見えてなくても真実が見えている。

コメントする
えみり